第二部・第3話 英雄の名を継ぐ者たち──崇拝と陰謀の始まり



 


むらおそった異形いぎょうえた翌朝よくあさ


ルシアスは、はいかたづけながら、

どこか居心地いごこちわる視線しせん背中せなかかんじていた。


 


(……あの老人ろうじんわすれられねぇな)


 


もない旅人たびびととしてってきたかれにとって、

過去かこるような”はなにより厄介やっかいだった。


 


むら人々ひとびとは、昨夜さくやたたかいを「奇跡きせきだ」とかたはじめていた。


 


ひかり一閃いっせんが、あの怪物かいぶつばしたんだって」

「“かみすらほろぼすけん”って、本当にあるのかもな」

「ほら、昔話むかしばなしてくるじゃない。“神殺かみごろしの英雄えいゆう”って」


 


──そう、“英雄えいゆう”がまた、口々くちぐちささやかれはじめたのだ。


 



 


そのよるむら広場ひろばにて。

ランタンのが、おだやかにれていた。


 


旅人たびびとさん……これ、ってくれませんか?」


 


ちいさな少女しょうじょが、はなかんむりす。


 


「え……ああ、ありがとな」


 


はなりながら、ルシアスは困惑こんわくする。


 


「あなたは、きっと……どこかの王子おうじさまだったんですよね?」


 


「いや……王子おうじって感じでもねぇとおもうけどな」


 


「じゃあ、英雄えいゆうさん?」


 


「それは……もっと似合にあわねぇ」


 


やさしくわらったその表情ひょうじょうに、どこかせつなさがにじんでいた。


 



 


だが、その平穏へいおんながくはつづかない。


 


翌日よくじつ午後ごご──

むら門前もんぜんに、一団いちだん騎士きしたちがあらわれた。


 


しろがね甲冑かっちゅう

金獅子きんじし紋章もんしょう

王都おうとラヴァンティア直属ちょくぞく特務とくむ騎士団きしだん


 


その中央ちゅうおう年若としわか騎士きし名乗なのる。


 


おれは《アデル・カーネル》。

 《神滅しんめつけん》をものとして──このむら伝説でんせつ英雄えいゆうかくれているといて、まいった」


 


ルシアスのが、けんつかれる。


 


(……おいおい、はなしびすぎだろ)


 


だが、アデルの真剣しんけんだった。


 


「この世界せかいは、神殺かみごろしの“そのあと”をめきれていない。

 残神ざんしん増殖ぞうしょくし、王都おうと不穏ふおんうごきをせている」


 


そしてかれは、ルシアスのけん見据みすえ、しずかにった。


 


「“英雄えいゆうルシアス”よ──あなたがまだきているなら、世界せかいはもう一度いちどあなたを必要ひつようとしている」


 



 


その言葉ことばに、村人むらびとたちはざわめく。

あの旅人たびびとが、まさか……と。


 


そして、ルシアスはこたえる。


 


「……すまないが、“おれ”はそういうまえじゃない」


 


「……だが、必要ひつようだってうなら──“旅人たびびと”としてくらい、ちからしてやるよ」


 


旅人たびびとは、ふたたあゆす。


過去かこではなく、いまきるものとして。

だれにも“崇拝すうはいされることなく”、ただ“だれかのちからになる”ために。


 


つづく

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