第二部・第1 話消えた英雄と、孤独な旅人


草原そうげんわたかぜは、やさしく人々ひとびとかみでていく。


それは、どこかなつかしいぬくもりをふくんでいた。


 


だが──そのある一人ひとりおとこにとって、そのかぜすらも“記憶きおくにならない”。


 


「……ここも、なにもないか」


 


旅人たびびとは、くたびれたフードをふかかぶり、足元あしもとつちみしめながらあるいていた。


こしには一本いっぽんけん

使つかまれたかわさやおさめられたそれは、ただの旅人たびびとにはわぬ代物しろもの


 


「……なあ、本当にわすれてんのか? オレのこと」


 


けんから、ちいさなこえこえた。


 


魔剣まけんグリム》──


かつて神々かみがみほろぼした終末しゅうまつやいば

そして、唯一ゆいいつかれを“英雄えいゆう”とつづけた存在そんざい


 


「グリム。……わるいけど、本気ほんきおもせないんだ」


旅人たびびとは、そうこたえる。


 


かつて“英雄えいゆう”とばれ、神々かみがみったおとこ

そのは、ルシアス・エル・フェルディア。


 


だがいまかれにその記憶きおくはない。


神界しんかいから人間界にんげんかいもど代償だいしょう”として、かれ自分自身じぶんじしんのすべてをわすれたのだ。


 


それでも、グリムだけはかれの“そば”にのこった。


記憶きおくも、も、なにたないかれが、“だれか”としてきるために。


 



 


──そのころ、北方ほっぽう国境こっきょう


えるようなあかそらした一人ひとりおとこっていた。


 


「……ここも“残滓ざんし”にわれたか」


 


黒衣こくい戦士せんし

そのひとみには、理性りせいのかけらもなかった。


 


残神ざんしん”──かつての神々かみがみ意志いしが、暴走ぼうそうし、世界せかいむしば異形いぎょう


神界しんかいほろびたいま、その災厄さいやく人間界にんげんかいながみつつあった。


 


「……おれめるものは、もういないのか?」


 


かれは、てんけんげた。


そのけんからはなたれたのは、“神気しんき残響ざんきょう”。


 


神々かみがみ崩壊ほうかいによってきんじられたはずのちから

それを自在じざいあやつものが、ふたたあらわれたのだった。


 



 


──そして、物語ものがたりふたたうごはじめる。


記憶きおくうしないながらもある旅人たびびとと、

世界せかいのこされた“神々かみがみごう”。


 


「……グリム。おれは、なにうしなって、なにまもったんだ?」


 


『さあな。でもな、おまえなにまもろうとしたか、こたえは――

 “このそらに、まだかぜいてること”さ』


 


どこかなつかしいかぜが、ふたたいた。


そのかぜなかに、“あのころ”のにおいが、たしかにのこっていた。


 


つづく

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