放課後サボタージュ3
知った。
知ってしまった。
放課後に何気なく、何を考えることもなく、窓の奥の校庭を見ていた時に。
「はい全員一旦座って!今回は昨日の続き!」
ざわざわとしていた周囲が一度静まり、もう一度こそこそと皆が話し始める。昨日の出来事だったからか、まだこの事件の熱は収まっていないようだった。中には今日、先んじて教えてくれと懇願する生徒まで現れ始めた。それは尊だったけれど。
そして、昨日のように言われるまでもなく、僕は立ち上がる。それとほぼ同時に後方のドアが閉められた。ここで僕は教卓に向かいながら、一つ賭けをしてみることにした。勿論合法だ。
「ありがとうございます。颯真さん」
「……」
僕は言いながら教卓に着く。一瞬、空気が止まった気がする。
「あれ?間違ってましたか?」
「いや、当たっている。ただ、驚いてな」
当の本人がそう告げた。ほとんどの生徒は気付きもしなかったが、教室の後方の席にいた人が少しどよめいていたことが分かる。
「いやいや、たまたまですよ。席の位置関係に、閉めるとしたら颯真さんぐらいですもん。だって、誠実だから」
誠実と、強調して伝える。それは皮肉でも何でもなく、本心そのままに伝えた。その言葉に颯真は特段何を返すでもなくこちらを見つめている。僕はそのまま、本題に入ることにした。教卓に諸々の資料を置く。
「じゃあ始めましょうか。この事件の問題解決を──」
「ちょっと待ってもらってもいいですか」
僕の話をぶった切ったのは、容疑者の一人、片岡有希。
立ち上がってまで、いったい何の話をするのだろうか。自白なのか、新情報の公開なのか、はたまた全く関係のない、単なる与太話なのか。
「あの、関係が無いかもしれないのだけれど、一応伝えておかなくちゃいけなくて、昨日も勿論掃除はしたの」
当たり前の話だ。それならば、犯人をここで言ってしまうのか。仲間を切り捨てるのか、彼女は。
教室中の注目は、既に僕よりも彼女にあった。
「それで、昨日林君がいたのだけれど……これは容疑者が増えるとも取れるし、少しおかしなところがあるの」
そう言うと、多くの生徒が一度、考えたのちに、尊を見る。尊の席は有希のほぼ魔反対。尊は、僕を見つめていた。僕は何も言わずに、有希を見る。
「何で、林君がいたのかなって、疑問に思ったの。だって、班って出席番号順でしょ?だから──」
「ほんとだ。うちらの班には尊はいないや」
いつのまにやら、悠亜が教室の端にある小黒板から、班員が記されているプリントを手に取って凝視していた。今日は何やら、騒がしい。何だか、必死に犯人を逃がそうとしている、そんな雰囲気を感じる。
「で、何が言いたいんですか?」
一応僕は、有希に簡潔にまとめるように、問いを投げかける。
「私も確認したの。そしたら、詩乃音君の名前が入っていた。詩乃音君って名字上ノ国でしょ。だから詩乃音君も2班。もしかしたら、詩乃音君が犯人の可能性だって、あるんじゃないかなって」
こいつは、僕よりも彼を擁護するか。
中学校の仲間意識など、裏を返してみれば仲良しグループで徒党を組んで、気に入らない存在を叩きのめす。倫理観も道徳観念も存在しない。悲しきかなこれが、中学生の本質だと、僕はまたその事実を忘れていた。ただ、僕はもう、あの時とは違うのだから、大丈夫。
「おい詩乃音。問解だからって、誰かに罪を着せようとしたのか!?」
「自作自演かよ」
「2班の人に謝れよ!」
そんなヤジ、落胆、嘲笑、怒りを前面に受けて、僕は本題に入る。
「うるせえ!黙ってろ!」
そう言って教卓に両手を叩きつけた。いつもの僕とはまるっきり違う口調に、明らかに苛立ちが抑えられていないように見える僕を見て、教室が静まり返る。
音を出すと圧迫感を感じる。それの応用編だ。この短期間でやりたいことの二回目が出来るとは思いもしなかった。
「……とりあえず、有希さん情報提供の方、ありがとうございます。座ってもいいですよ。ただまあ、情報を一部だけ切り取るなんてこと、しない方が良いですよ。尊じゃないんだから」
惣渠新聞がいつもやってることの嫌味を付けくわえながら、話をする。尊は薄っすら笑っていたのを、手で隠していた。
「そして、尊が掃除に参加していたことと、今回の事件は全く関係はありません。ねえ志佐人さん?」
僕の言葉に、また彼らはざわつき始める。志佐人も関係があるのかと、怪訝そうな目を向けながら。
「……その通りだな。尊が居て、詩乃音が居なかった。この事実は、班員が一人足りなかったことの裏付けにはならない」
志佐人は思っているよりも正直に話した。やはり、僕も志佐人も尊も、同じ穴の狢だ。サボれるところサボる。賢くて、卑怯だ。
「ということで、これから本題に……そうそう、昨日はしっかりと来ていたそうですね。北村先生に聞きました。今日は問題ないと。駄目ですよ、サボリはしっかりと一週間やり遂げなければ、足が付いちゃいますから。ねえ颯真さん」
僕は大体予想通り、推察通りではあったけれど、皆にとってはそうでもないらしい。口々に批判が飛び交う、その内ただの悪口もあった。これが、仲間意識だ。理論じゃなくて、実際に見てみるとこれまた、感慨深いものを感じる。
「ここで白状しますか?颯真さん」
「……いや、詩乃音の意見を、推察を聞いてみたい」
「そうですか……では、問題解決といきます」
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