2024年1月27日 ①

 2024年1月27日。

 昨日まで続いた雨が嘘のようによく晴れた日だった。

 僕は大学の最寄りの駅で武田さんを待っていた。今日は武田さんの提案で大学の周辺で遊ぶことになっていた。


 テストも無事に終わり、今日から春休みに入った。次に大学で会えるのは三月の終わりになるかもしれない。だから僕は、今日が武田さんと過ごす最後の日かもしれないと思いながら、駅で彼女を待っていた。


 武田さんは大学の方から駅にやってきた。彼女はいつものように笑っていた。

「お待たせ。わざわざ休みになっても学校の最寄りまで来てもらってごめんね」

「いやいや、全然大丈夫だよ」

 僕もいつもと変わらないように言った。

「じゃあ行こうか」


 武田さんは僕に背を向けて歩き出した。病気であることが嘘であるかのように武田さんの背中は大きく、輝いて見えた。その背中を追うようにして、僕も歩き出した。武田さんについていくと着いた場所は地元の小さな映画館だった。

「私、見たい映画があるんだよね。」


 彼女は僕の手を引いてその映画館に入った。見た映画はアニメ映画だった。その映画はシリーズもので、僕はそれまでの作品を見ていなかったから、内容はよくわからない。だから少し眠い。しかし、武田さんが隣にいるので寝るわけにはいかない。

「いや~面白かったね。」

 その映画を見終えた後、武田さんはとても楽しそうに感想を述べていた。僕は内容がよくわからなかったが、武田さんが楽しそうにしているのを見て、安心した。


「続編が出たらまた来ようね」

 嬉しそうに言う彼女の言葉に、まだあのアニメ映画続くのかと思うと同時に、これからのことを考えようとして、やめた。

「もちろん」

 僕たちは二人で笑いあった。


 映画館を出た後、僕たちは近くのファミレスに向かった。ファミレスに着くと、僕たちはドリンクバーを二つ頼んで、本の話をした。1月に読んだ本の感想を言ったり、もっと前に読んだ本の感想を言い合ったりして、時間は刻一刻と過ぎていった。二十時を過ぎるまで僕たちは話続けた。


「私はそろそろ帰ろうかな」

 武田さんは帰る用意を整え始めた。僕は、時間の方から迎えに来たような気がして、無理にでも引き留めたくなった。

「家まで送るよ」

 そう言って、二人でファミレスを出た。


「一人で帰れるよ?もう遅いし」

 申し訳なさそうに武田さんが言う。僕は何と言おうか迷った。もう会うこともないと思って自分の素直な気持ちを言うことにした。

「まだ、もう少しだけでいいから、僕が一緒にいたいんだ」

 武田さんはうなずき「わかった」と言って、それ以上は何も言わなかった。

 二人で大学の正門の前を通った時に、雪が降りだした。昼間はあんなにも晴れていたのに、いつの間にか雲が重なって、暗くなっていた。


「なんか、懐かしいね。初めて会った時も雪だったっけ」

「そうだね。最初に傘を貸してくれたんだよね」

「あーそうだったね。あの傘まだ持ってる?」

「持ってるよ。今日家に着いたら返すね」


 僕は黙った。

 家について、傘が返ってきたら、いよいよこの関係も終わってしまう。そう思いながら歩いた。

 大学の前を通った後の交差点のところに小さな公園がある。僕は公園の前で足を止めた。それに気がついた武田さんが振り返る。ここで言えなかったら、一生言えないと思った。だから僕は、自分の思っていることを包み隠さず言うことにした。


「僕は……」

 緊張する。武田さんは僕をまっすぐに見つめている。

「僕は君が好きなんだ。本が好きなところも、無邪気にラーメンをすするところも、勉強頑張ってるところも、笑顔が素敵なところも、全部、全部好きなんだ‼」


 武田さんは前を向き、僕に背を向けた。

 その背中は、さっきまでよりずっと小さく、遠く感じた。

 雪が静かに降っている。その白さが、まるで時間を止めたようだった。


 僕は震える声で続けた。

「僕と付き合ってほしい」


 一瞬の沈黙があった。

 冷たい風が、頬を撫でた。

 僕には、武田さんが何を考えているのか見えなかった。


 そして、彼女は小さな声で言った。

「ごめん。幹人君とは付き合えないよ」


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