2023年12月27日 ①
2023年12月27日。
僕は頭の上で鳴っているスマホのアラームで目を覚ました。アラームを止めると時刻は9時を示していた。14時に新宿なので少し余裕がある。ただ、二度寝して時間が過ぎたら困るのでベッドから体を離してリビングに向かった。リビングでは母が食パンを食べていた。
「おはよう。今日も早いわね。食べる?」
「食べる。三枚ぐらい食べたい」
昨日の夜はあまり食べてないし、今日は武田さんといるときにお腹が鳴ってほしくない。そう思っていつもより少し多めに食べることにした。母は市販の食パンを三枚袋から出し、オーブンに入れて、タイマーをセットした。僕は「ありがとう」と言って、タオルをとって洗面台に顔を洗いに行った。顔を洗って戻ってくると母が聞いてきた。
「今日の夜ご飯はいるの?」
「うーん、どうだろう。友達次第だけど、夜ご飯までに帰ってこれそうだったら連絡するよ」
「そう。わかったわ」
そこで狙ったようにタイマーが鳴った。母が動こうとしたので「自分でやるから座ってて」と言って皿を出し、そこにこんがり焼きあがった食パンを乗せ、テーブルに置いた。さらに冷蔵庫からいちごジャムとバターを取り出し、席に着いた。一枚目はいちごジャムをつけて食べ、二枚目と三枚目はバターをつけて食べた。
朝食が終わると少し時間ができた。
昨日の夜に着ていくものは決めていたし、デートプランも考えてある。
僕は本を読むことにして、僕の部屋の本棚を物色した。僕の本棚には文庫本が八百冊程度入っている。しかし、僕の本棚の中にある本はすべて、一回は読んだことがある。だから、何を読もうか悩んでいると、二段目の棚から、『あの花の後で』が出てきた。
僕はこれを読めば少し、武田さんのことを知れるかもしれないというドキドキした気持ちで読み始めた。
11時30分を回ったところで僕は『あの花の後で』の中盤のところで読むのを中断し、本棚に戻した。そろそろ家を出なければいけない時間だ。僕は予定していた服に着替えた。着替えた後、歯磨きをして、今までの大学生活の中で最高の状態で家を出た。
外は雲一つない快晴だった。
僕は電車に意気揚々と乗り、電車の中で昨日考えたプランをもう一度見直した。武田さんが今日が人生で一番楽しかったと思えるような、そんな日にしたいと思いながら電車に揺られ、新宿を目指した。
新大久保駅でLINEがきた。送信者には香菜と出ている。
『京王線止まってて、遅れるかも。ごめん。』
僕は少し、残念な気持ちになったが、遅延は仕方ないので、
『気にしないで!僕は駅の中のカフェにいるから、着いたら連絡して!』
と返した。LINEを返している間に新大久保駅から、新宿駅についていた。僕は新宿駅の中にあるカフェに入った。そして、京王線の情報を調べた。スマホには人身事故と出ていた。人身事故はかなり状況が悪いそうだ。人身事故だと時間がかかるかもしれないな、と思いながら、カフェでコーヒーを飲んだ。
次に武田さんから、連絡がきたのは1時間30分後、つまり3時30分ぐらいだった。
僕が考えていたデートプランはもう意味をなさなかった。武田さんの提案で紀伊国屋書店ではなく、僕の今いるカフェで集まることになった。僕はコーヒーの三杯目に加え、武田さんの分も頼んでおいた。
それから少しして、武田さんが来た。
武田さんは、いつもかわいいと思っていた。けれど、今日の彼女は、その“いつも”を軽く超えていた。
淡い色のコートに、耳元で揺れる小さなピアス。
ナチュラルなのに、ちゃんと“誰かと会う準備”をしてきたことが伝わってくる。
そう思った瞬間、僕の心臓が少しだけ騒ぎ出した。
もしかして、今日の“誰か”って……僕、なんだろうか。いや、ありえないな。きっと僕の前に誰か友達と会っていたのだろう。
「ごめん。私が時間と場所決めたのに。本当にごめん」
「いやいや、遅延は武田さんのせいじゃないし、仕方ないよ。全然気にしないで。それより、コーヒー頼んどいたから、とりあえず飲もうよ」
「ごめんね。ありがとう」
二人でコーヒーに口を付けた。すると武田さんは少し気まずそうに聞いてきた。
「これからどうしようか?」
「約束してた紀伊国屋書店に行って、その後は……どうしようか」
紀伊国屋書店は駅から大体5分で着く。どのくらいいるのかはわからないがさほど遅くはならないだろう。
「遅れてきた私が言うのもなんだけど、私は紀伊国屋書店に行った後は、どこに行ってもいいよ?というか、私は幹人君が行きたいところに行きたいかな」
幹人君と呼ばれて僕はドキッとした。鼓動が速くなった。心臓がうるさく鳴った。僕はそれをごまかすようにコーヒーを飲んだ。
「僕は……」
もう意味をなさないデートプランでは最後は新宿御苑に行くことになっていた。ただ、本当に新宿御苑で武田さんが楽しんでくれるのかで少し悩んだ。僕は自信がなく、か細い声で言った。
「新宿御苑を見に行きたい」
すると、武田さんは笑顔で
「紀伊国屋の後はそこに行こう」
と言った。そこから二人はコーヒーを飲み切り、カフェを出た。
カフェを出た後は、新宿駅の北口から、紀伊国屋書店に向かった。新宿は相変わらず人が多かった。
「やっぱり新宿は人が多いね」
僕は武田さんにそう声をかける。
「そうだね。特にカップルが多いね」
クリスマスの余韻だろうか、特に大学生ぐらいのカップルが多く目についた。
新宿駅を出ても人の数は減らないままだった。むしろ増えているだろうか。東口から紀伊国屋書店までの道も人が溢れかえっていた。詰め込まれた本棚の本も、こんなふうに押し込められてる気分なのだろうか。
僕の後ろを歩く武田さんは僕の着ていた服の袖を摘まんだ。その小さな指先が、シャツ越しに伝えてくるものがあった。
あたたかくて、少し頼られているようで――
「はぐれたくないから、あんまり早くいかないでね」
ただ頷くことしかできなかったけれど、きっと、、僕も少しずつ、彼女の隣に“いよう”としていた。
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