3-6

「なるほど、マキャヴァリアス……さんにもそんな苦労があったのですね」

 昼休み。俺、マキャヴァリアス、ミッシェル、レインの四人で昼食を取っていた。

 場所は屋上。相変わらず誰もいないので貸切状態。そういったこともあり、レインにはマキャヴァリアスの現状について包み隠さず話すことにした。

 協力してくれる仲間は多い方がいいし、秘密を話すことでお互いの距離は縮まる。

「面白いよな。孤高のお嬢様みたいな雰囲気なのに、実は寂しがり屋ってさ」

「う、うるさいわね! このゴリラ男!」

「やめろ……それを言うな……。さっきは変なアドレナリン出てたから恥ずかしくなかったんだが、今は普通に恥ずかしいし、なんなら死にたい……」

 あのあと教室がありえないくらい静まり返っていたからな。あのウルゥとカイムですら言葉を失って気まずそうに目を逸らしていたし。

 しかも、あれを他の先生方にも目撃されていたようで、職員室に戻った時に机の上にバナナが置かれていた。これってイジメですよねぇ!?

 ムカついたから職員室でもゴリラのモノマネをしてやったぜ。他の先生は気まずそうに目を伏せていた(中富さんはめっちゃ笑っていた)。ははは、俺の完全勝利。

 はぁ、ますますこの学校での立場がなくなっていく。

「いえ、守さん! めちゃくちゃいい体でしたよ! 僕めっちゃ興奮しましたもん! もしよければ舐めていいですか!?」

「いやだよ! 触っていいですか、とかならまだしも!」

「じゃあ触らせてください!」

「レイン君だけずるいー! ボクもまもるんの筋肉触りたいー!」

「って、おい!」

 俺の許可を得る前にレインとミッシェルはペタペタと上半身を触ってくる。

「はぁ……はぁ……いい筋肉ですね、守さん」

「すごい……これ。硬いし大きい……ボクなんか変な気持ちになってきた」

「ちょ、やめろ! どこ触ってるんだ、お前ら!」

 鼻息を荒くしてやたら胸回りを触ってくる二人。何が悲しくて男二人に性感帯を刺激されないといけないんだ。

「…………」

 そんな様子をなぜかマキャヴァリアスは不機嫌そうに静観していた。

「なんだ、マキャヴァリアス。お前も触りたいのか?」

「バ、バカ言わないでよ! 別にアンタの筋肉に微塵の興味もないし!」

「ならどうして不機嫌そうにしているんだよ……」

 マキャヴァリアスは対人経験が不足しており、色々と屈折していることは理解したのだが、まだ細かい感情の機微などは分からなかった。

「あーそれはですね、まもるん。おそらく、レイン君とボクがまもるんと楽しそうにしていて、仲間外れになってる感じが気に食わなかったんじゃないですかね!」

 なるほど、長い付き合いなだけある。ミッシェルの説明で納得がいった。

「さすがミッシェル。マキャヴァリアス検定一級の実力者」

「変な検定作らないでよっ!」

「ミッシェルの発言自体は否定しないんだな……。どうする、やっぱりマキャヴァリアスも一緒に筋肉触っておくか?」

「……うん」

 マキャヴァリアスは気恥ずかしそうにしながら頷いた。顔は真っ赤である。

 それからマキャヴァリアス、ミッシェル、レインの三人は仲良く俺の筋肉を触っていた。

 ………………いや、これなんの時間?

 閑話休題。

「そういえばレイン、この弁当めっちゃ美味いわ。ありがとな」

「お褒めいただき恐悦至極です! 守さん!」

 今日から俺の昼食はレイン、ウルゥ、カイム、猫又女の順番でそれぞれが弁当を用意してくれることになっている。一番手は言い出しっぺのレインから。

 レインの用意してくれたのは四種類のサンドウィッチ。定番のたまごサンド、ベーコンレタスサンド、そして変わり種のナポリタンサンド、ツナピクルスサンド。

 食パン二枚で作ったサンドウィッチを四等分にし、俺とレインで二個ずつに分ける形になっている。つまり弁当箱の中には合計八個・四種類のサンドウィッチが入っていた。

 今は各種類のサンドウィッチを一個ずつ食べた状態だ。せっかくなので感想でも。

 まずはたまごサンド。

 定番中の定番であり、卵とマヨネーズの甘さがこれまたパンに合う。しかし、ただ甘いではなく粒マスタードを入れることで味に締まりが出ている。

 ベーコンレタスサンド。

 新鮮で水々しいレタスとカリッと香ばしいベーコンのコントラストが楽しい。シンプルだからこそ食材選びと繊細な味付けが物を言う。

 ナポリタンサンド。

 炭水化物オン炭水化物。これは邪道か、否。これでもかと言うくらい濃厚なケッチャプと絡められたパスタはもはやおかずである。

 ツナピクルスサンド。

 ツナとマヨネーズはもはや熟年夫婦のような関係だ。しかし、だからこそマンネリ気味。そこにピクルスという酸味を加えることで関係にメリハリが生まれる。

 どれも最高に美味だった。

「なんでアンタは生徒にお弁当作ってもらってるのよ……」

「俺が命令したんじゃなくて、あくまでみんなからの提案だからな! というか、マキャヴァリアスもウルゥと同じようなことを言うんだな…………そういえば、似てるかもしれない」

 二人とも何かと俺に対して厳しい。何かと突っかかってくるし、すぐに殴ってくるし。

 そういう意味では、何となくマキャヴァリアスとウルゥは似ている気がする。もちろんコミュ力については雲泥の差ではあるけどな。

「いえ、守さん! あんな泥棒犬とマキャヴァリアスさんを一緒にしては駄目ですよ!」

「泥棒犬って、慣用句的には猫だろうが。……にしてもレインとウルゥは仲がいいよな」

 まぁ、犬型の獣人であるウルゥに泥棒猫ってのも変な話か。というか、レイン目線でどうしてウルゥが泥棒猫になるのか分からん。

 この二人は何かと教室でバトルを繰り広げている。まさしく犬猿の仲(犬だけに)。

 しかし某有名な猫とネズミのように、仲良く喧嘩している感じ。見ているこちらとしては大変に微笑ましい感じだ。

 そうなんだよな、レインとウルゥの関係性を踏まえても————

「仲良くないですよ! ……ただ、僕個人の感情は置いておいて、マキャヴァリアスさんとの相性はいいような気がします」

「レイン、察しがいいのは助かるが、他の二人がついて来れてないぞ」

 これまでの会話だけで俺の言いたいことを理解してくれたようだ。いつもふざけているようだが、なんだかんだキレ者なんだよな、レインは。

「え、二人ともどういうことー!? ボクはさっぱりだよ! ユノーは分かったー?」

「いえ、あたしも何の話だか……」

「すみません、先走ってしまいました! えと、つまり守さんはマキャヴァリアスさんの次の攻略対象をウルゥさんにしようと言いたかったんですよね?」

 レインの言っていることに間違いはないが、少しだけ補足をさせてもらおう。

「そう、レインの言った通りだ。マキャヴァリアスは、次にウルゥと仲良くなることを目指すべきだと思っている。理由としては、レインと繋がりができたことでアプローチがしやすくなったというのが一つ。あとはマキャヴァリアスと話をしていて、ウルゥとの相性が良さそうだな、と感じたのが決め手かな」

 やはり、どこかで同性の友人は必要になる。

 男とばかりつるんでいると所謂オタサーの姫みたいになって、逆に同性から嫌厭されるという事にもなりかねない。

「あ、あたしが獣人の子と……」

「うーん、どうなのかなぁ。ウルゥちゃんはクラスのトップカーストだし、今のユノーじゃ相手にならないような気もするけどなー」

 そうなのだ。正直なところ、ウルゥ攻略はもう少し後にするつもりではあった。

 こういう言い方はあれだが、まだクラスに馴染めていない女子生徒、失敗が許される子と仲良くなることから始めたほうが無難だとは思う。

「ミッシェルの言いたいことも分かるが、何となくマキャヴァリアスとウルゥは案外あっさりと仲良くなれそうな気がするんだ。それとレインにサポートしてもらうこともできるし、悪い選択ではないと思う。ただまぁ、最後はマキャヴァリアスの意志次第だけど」

 結局のところ決めるのは本人だ。マキャヴァリアスが少し背伸びしてでもウルゥと仲良くなってみたいのか、それとも着実にステップを踏んで行きたいのか。

「あたしは…………」

「まぁ、時間はあるから焦らなくてもいいぞ」

 昨日の今日でレインと友達になった。これだけでも大きな進歩だ。

 別に期限があるわけでもないのだから、ゆっくり自分のペースでも————————

「実はあたしも彼女と喋ってみたいと思っていたから………だから、その……三人とも協力してくれると嬉しい」

 これまで受け身気味だったマキャヴァリアスが自分の意思を示した。

 そうなったら俺たちのやることは一つだけだ。ミッシェル、レインと顔を合わせる。

『任せろ!(もちろんだよー!)(任せてください!)』

 よし、方針が決まった。

 MKNプロジェクトの第二ミッションはウルゥ攻略だ。

「じゃあ、さっそく作戦を考えようか————————」

「あ、やっぱり屋上にいた! なんでレイン君とミッシェルちゃんは誘って、わたしは誘ってくれないんですかー守先生!」

 ……えてして、物事というのはそう簡単に進まないらしい。

 

「(やばいやばい、ウルゥが来ちゃったぞ!)」

「(ど、どうしよー! 作戦も何も考えてないよー!?)

「(あわわわわわ……!)」

 屋上に突如現れた来訪者。その正体は件のウルゥだった。

 ちょうど今作戦を考えようとしていたのに間が悪い。俺、ミッシェル、マキャヴァリアスの三人は動揺を隠せずにいた。

「(三人とも落ち着いてください。彼女は僕がどうにかします)」

「(どうにかするって、何をする気なんだレイン!?)」

 そんな中でもレインだけは、冷静に次のアクションを考えているようだ。

「(何とか意識を飛ばします。大丈夫です、命までは取りませんから)」

「(本当に何をする気なの!? と、とにかく暴力的手段はNGだから!)」

 こんなことで流血沙汰なんて馬鹿馬鹿しすぎる。レインは冷静なのではなく、頭のネジがぶっ飛んでいるだけだった。

「(まもるん……どうする……?)」

「(……もうこうなったら自然のままいくしかないだろ。マキャヴァリアスは基本黙っておくだけでいい。たぶんウルゥも距離感的にそんな絡んでこないと思うから)」

「(わ、分かったわ!)」

 別に悪いことをしているわけでもないんだ。ごくごく自然に対応すればいい。

「お、おうー。 わ、悪いな、ウルゥ。てっきりウルゥは他のメンバーと食事するんじゃないかと思ってなー。一応誘おうとは思ってたんだよー」

 めちゃくちゃ棒読みだった。俺には駆け引きとは向いてないかもしれない。

「それでも声ぐらい掛けてくれてもいいじゃないですかー! 今日はレイン君のお弁当の日ですし、色々と偵察しておきたかったんですよ……!」

 ウルゥはぷりぷりと文句を言いながらこちらに近づいてくる。

 くっ、これはもう合流必至だ。チラリとマキャヴァリアスの方を見ると、明らかに顔が強張っている。顔面を木工ボンドで固めたような表情をしていた。

「あぁ、レインの弁当な……! めっちゃ美味かったぞ。ほら、このサンドウィッチ」

「ウルゥさん、僕の次というのが運の尽きでしたね。守さんの評価は上々。かなりハードルが上がっていることを認識してくださいね!」

 仕方ない。とりあえずマキャヴァリアスに興味が向かないように、ウルゥが興味のありそうなテーマで話続けることにしよう。

 レインもそれを察して話に乗ってくれた。

「ぐぐぐ……! た、確かに美味しそう……!」

 ウルゥはレインの作ってくれたサンドウィッチを凝視して歯軋りしていた。

 そして、さりげなくウルゥは俺の隣にちょこんと腰を下ろす。これで俺、マキャヴァリアス、ミッシェル、レイン、ウルゥで輪になって座るような状態になった。

「ははは、ウルゥの弁当も楽しみにしてるぞー」

「そうですねー。やはり敵が強くないとやりがいがないですからねー」

 俺とレインはなるべく話題が尽きないように、ウルゥの興味がマキャヴァリアスへと移らないように、何とかして会話を引き伸ばそうと苦心する。

「というか、何でマキャヴァリアスさんと一緒にご飯食べてるんですか!? 守先生とマキャヴァリアスさんって結構気まずい関係なんじゃ……!?」

 三○秒も保ちませんでした。

 そりゃ、いつもと違うメンバーがいたら触れたくなりますよね。言うなれば、サッカー日本代表の中に大谷翔平がいるようなものだ(その例えで合ってる?)。

「い、い、い、いや……こ、これは、そ、そ、その……」

 パニックになる、俺。

 さながら浮気の証拠を突きつけられた最低彼氏の様だ。

「ま、まもるんとユノーは和解したんだよね!? ね!?」

「そ、そうそう! いつまでも冷戦状態ってわけにもいかないからな!」

 ナイスフォロー、ミッシェル!

「仲直りしたんですねー! それはよかったです! けどなんか距離の縮まり方がすごいですね……? もう一緒にご飯食べて……」

「い、い、い、いや……そ、それは、あ、あ、あの……」

 再度パニックになる、俺。めちゃくちゃポンコツです。

「それは当然ですよ、ウルゥさん! マキャヴァリアスさんの美貌の前に、いくら守さんと言えど虜になってしまうのは仕方のないことです!」

 ナイスフォロー、レイン! ……いや、これってフォローになっているのか?

「あれだけ生徒との恋愛はナシとか言っておいて……、結局は可愛い子の前ではデレデレするんですねー? へぇー、ふーん、へぇー」

「痛っ! 痛たたた! あの、ウルゥさん……? つねるのをやめてもらえると……!」

 不機嫌そうに口を尖らせたウルゥが結構な力で腕をつねってくる。

 何だなんだ、ウルゥは一体何に腹を立てているんだ。

 ……あれか、可愛い子だけ贔屓しているみたいに思われているってことか。それだと、だいぶ誤解をされていることになるぞ。弁解しなくては。

「ウルゥ、落ち着け! まず、可愛い子だけを贔屓するようなことはしない! それにその理屈だったらウルゥを贔屓しないのはおかしいだろ!」

「え、それって……!? わたしを可愛いって思ってるってことですよね!?」

「……ま、まぁな。けど、あくまで一般論だからな!」

 俺の主観とかは置いておいて、ウルゥを見たら十人中、十人が可愛いと答えるだろう。それは容姿もそうだし、全体的な雰囲気とか、中身とかを全て含めての話だけどな。

 ……というか、ウルゥには前に話の流れで美少女とか言った覚えがあるが、それについては完全に忘れているようだな。

「えへへ、そ、そうですかー。守先生はそんな風にわたしのことを見てるんですねー!」

 なんかウルゥの機嫌がなおった。

 いつも以上にニコニコとした表情で嬉々と尻尾を揺らしている。

 よかった、俺が顔で生徒を差別するような人間でないことが伝わったみたいだ。

「誤解が解けたみたいでよかった……。って痛たたた! 何だよ、マキャヴァリアス!? 何でお前まで俺のことをつねってくるんだよ!?」

「知らないっ!」

 気がついたらウルゥとは反対側にマキャヴァリアスが陣取っており、何やら不満そうな顔で俺の腕をつねってきた。相変わらずこいつの行動原理は読めない。

「おーい、ミッシェル。マキャヴァリアス検定一級から見て、今のマキャヴァリアスの行動原理を解説してくれ」

「うーん、ボクからはノーコメントで! ボクから言えるのはまもるんが朴念仁ってことくらいかなー!」

「なんで!?」

 朴念仁ってたしか無口な人とか頑固者のことだよな……。

 うーん、自己評価だとそんなことはないと思っていたのだが、生徒からそう見えるなら改善したほうがいいのか。

「————————ねぇ、マキャヴァリアスさん」

「な、な、な、な、なに!?」

 そんな俺たちの様子を静観していたウルゥがおもむろに口を開いた。突然話しかけられたマキャヴァリアスはパニック状態になっている。

 やばい、なるべく二人を喋らせないようにする計画だったのに……。

「急にこんなこと言うのも変だけど……、わたしと友達になってくれませんか!」

「……え?」

 マキャヴァリアスはポカンとしていた。

 もちろん、俺やミッシェル、レインも同様に驚きを隠せない。願ったり叶ったりの申し出だけど、どうしてこのタイミングなんだ?

「なんかマキャヴァリアスさんとは趣味が合いそうだったから! もっと色々とお話しできたら嬉しいな!」

「…………あ、あたしでよければぜひ」

 モジモジと指を忙しなく動かしながら、マキャヴァリアスは答えた。

「やったー! わたしのことはウルゥでいいよ! というか、獣人は苗字とかないし! わたしはユノちゃんって呼んでもいいかなー?」

 そんなこんなでとんとん拍子で話が進み、晴れて二人は友人関係になった。

 いや、相性が良さそうだな……とは思っていたけど、まさかウルゥの方からここまで積極的に友達になりたがるとは予想していなかった。

 結局、なにが決め手だったのかもよく分からないし。ただまぁ……結果オーライってことでいいのかな? 

 こうして、意外とあっさりウルゥ攻略パートをクリアしたのだった。

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