2-4

「ぜぇ……はぁ……もういい。誰が変人かという話は一旦置いておく。時間がもったい無いから、あらためて自己紹介と情報共有をさせて」


 必死にツッコミに回っていた鷺ノ宮さんは息切れ寸前だった。同じツッコミ担当として同情を禁じ得ない。分かるぜ、あんたの苦しみ。

 脳内で鷺ノ宮さんの頭をポンポンとする(本当にやったら殺されそうなので)。


「えーと、じゃあ、あらためてボクは小川渚。ここに来る前は————」


 渚の自己紹介に続いて、俺と秋津さんも自己紹介と情報共有をする。

 フルネーム、出身地、年齢および学年、この場所に来るまでの経緯など。

 鷺ノ宮さんはただ黙って話を聞いていた。

 そして、俺たちが一通り話し終えると難しい顔をする。


「……そう、あなた達はここに来てからまだ一日しか経ってないのね。それで全員ここに来るまでの記憶も曖昧と」


 期待が外れた、そんな落胆を隠せないでいる。


「申し訳ない。俺たちは情報という情報をほとんど持ってないんです。だから、鷺ノ宮さんの話を一方的に聞くかたちになってしまうと思います」

「大丈夫、謝らないで。この一週間とにかく脱出の手がかりがなかったものだから、あなた達がなにか知っているんじゃないかと変に期待してしまったの。勝手に期待して、勝手に落ち込むなんて迷惑な話よね。だから、気にしないでくれると嬉しいかな」


 鷺ノ宮さんは申し訳なさそうにしていた。自分の態度を反省しているようだ。

 それにしても……、一週間か。

 誰の助けもなくこの場所で一週間も生き残ることがどれだけ過酷だろうか。一日でヒーヒー言っていた自分が恥ずかしくなる。


「わかりました。それじゃあ詳しく話をうかがっても? さっき、この場所が『島』だとか言っていたと思いますが……」


 ずっと気になっていた疑問をぶつける。この場所が島であると。

 もしかしたらここは日本ではないのではないか。昨日から予想していたことではあるが、あらためて言われてしまうと動揺を隠せない。

 ここが島というなら、俺たちはどうやって元の場所に戻ればいいんだ?


「その前にあらためてあたしの素性について説明させて。名前はもう全員知っていると思うから割愛。出身は東京で高校も東京。今年で二年生だから江古田くん、渚くんとは同い年かな。この島には気がついたらたどり着いていた。境遇は全く一緒ね」

「なんだ、タメかよ。敬語使って損したぜ。鷺ノ宮、パン買ってこいよ」


 今まで敬語を使っていた分、ここで横柄な態度を取らないと割に合わない。

 わりと上下関係を気にする方なのです。ギャル相手にも果敢に挑んでいくぜ!


「…………」

「やめろ! そんな目で俺を見るな!」


 あれは道端のうんこを見る目だ。決して人に向けていいものではない。

 美人なだけにその視線が突き刺さる。めちゃくちゃ痛い。

 俺はウ◯ンの力をなんとかウンコの力に出来ないか、と常日頃考えるくらいにはうんこが好きだが、自分をうんこのように取り扱われることは御免被りたい。


「…………」


 無言の攻撃は続く。くそ、これならいっそ罵ってくれた方がマシだ。

 国語の教科書に載っていた『少年の日の思い出』を思い出す。「そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな」あのセリフは俺の心えぐった。

 怒りではない感情。軽蔑、失望、諦念。

 それは直情的なものでないからこそ、相手の胸にぐさりと突き刺さるのだ。


「うああああああああああああ!!」

「ちょ、なにしてるの!?」


 耐えきれなくなって全裸になった。

 鷺ノ宮は手のひらで顔を覆い隠してこちらを見ないようにしている。

 安心してください。ちゃんとゾウさんモザイクが機能しているのでブツは見えません。

 俺は地に膝をつき深々と頭を下げる。


「全裸の土下座は嘘偽りのない誠心誠意の謝罪の気持ち。許してください!!」

「わ、わかったから! だから早く服を着て!」


 鷺ノ宮は顔を真っ赤にしてじたばたしている。

 よし、感情が見えた。……俺は分からないことが怖い。気心知れている相手ですら何を考えているのか分からなくなる。ましてや出会って間もない相手など。

 それがたまらなく恐ろしい。それじゃあ、まるで俺たち人間は表層でしか繋がれないのではないか、もっと言えば接続すらできていないのではないか。

 感情は分かりやすい。喜怒哀楽は偽りづらい感情だから。

 だから、俺はそれを見て安心したいのだ。もし、この感情すら偽りだとしたら何を指標に人と触れ合っていけばいいのか。


「俊介だけ全裸になってずるい! ボクも脱ぐ!」

「じゃあ、わたしも」


 なぜか突然、渚と秋津さんは全裸になった。

 うん、この2人は頭がおかしい。


「渚も秋津さんも何してるんですか! いきなり全裸になるなんてどうかしてますよ!」


 俺のツッコミ魂に火がついた。

 謎の光によって大事な所は隠されているとはいえ、正気の沙汰ではない。


「江古田くんだけはツッコむ資格ないからね!?」

「ここはツッコミ担当の出番でしょ」

「お願い! 江古田くんは二度と自分をまともとか、ツッコミ担当とか言わないで!」


 鷺ノ宮はまた頭を掻きむしりながら甲高い声をあげていた。

 かわいそうに。二人の狂人っぷりに冷静ではいられなかったのだろう。


「ほらほら、二人とも鷺ノ宮が困ってるから服を着てください」

「江古田くんは自分の格好を省みてくれる!?」

「鷺ノ宮。……大事なのは誰が言うかじゃない。何を言うかだ」

「もう誰か助けて! まともな人が一人もいない!」


 半狂乱になった鷺ノ宮をなだめるまでしばし時間がかかった。

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