第6話 高田有佐

 火曜日。今日は強い雨だ。朝から雨だったから当然傘は持ってきている。しかし、夕方になっても雨は止むどころかどんどん強くなってきた。俺は憂鬱な気持ちで校舎を出た。


 すると、どしゃぶりの中、傘を差して俺を待っている女性が居た。髪はあの頃より少し伸び、大人っぽくなっているが、印象はあの頃とあまり変わっていない。


「萩原君……」


 高田有佐の懐かしい声が雨の中から聞こえてきた。俺は彼女を見つめ、言った。


「有佐……久しぶり」


「そうね、久しぶり」


「雨がひどいぞ。カフェにでも行こう」


「……うん」


 俺たちは強い雨の中、カフェまで歩く。といっても、すぐそこだ。俺たちは向かい合って座り、コーヒーを注文した。


「やっぱり、有佐も来たんだな」


「うん。すぐ行きたいって思ったんだけど、みんなが順番だからって」


「順番決めてたのかよ」


「そうよ。知らなかった?」


「知らないよ。なぜか一人ずつ来るなって思ってた」


「そうだったんだ。私たちはずっと連絡取り合ってるからね」


「そうだよな……」


「……スマホ、解約したの?」


「ああ」


「やっぱり、連絡も嫌だったの?」


「嫌というか……とにかく、リセットしたかったんだ。全てを」


「そっか……じゃあ、リセットできた?」


「ある程度は」


「そっか……いいな、萩原君は」


「何がだよ」


「私は未だにリセットできていないから」


「……何か、そうらしいという話はみんなに聞いたよ」


「うん……でも、こうして会えて、萩原君の顔を見て、もう私もリセットできたと思う」


 そう言われると、胸が痛む。有佐と俺とはもうこれで最後ということだろうか。


「リセットできたのか」


「できたよ。だから、改めて始めたいんだ。友達から」


 有佐は俺を真剣な顔で見つめた。


「俺は――」


「リセットできたんでしょ。だったら、初めて会った女性、高田有佐として、萩原君と友達になりたいです。どうかな?」


 そう言われると、俺は断れなかった。それに断りたくも無かった。


「……こちらこそ、よろしく頼む」


「うん! よかった……じゃあ、早速お願いがあるんだけど」


「なんだ?」


「連絡先、交換しようよ。今はスマホあるんでしょ」


「……そうだな」


 俺は有佐と連絡先を交換した。


「今日はもう十分かな……帰るね」


「そうか……」


「じゃあ、また」


 有佐は店を出て行った。こうして有佐との再会はあっという間に終わった。


◇◇◇


 水曜日は何事も無く過ぎ、木曜日になった。この日も朝から雨。朝、有佐からメッセージが届いた。


有佐『今日は暇ある?』


萩原『バイトだ。でも、学校終わってから少し時間はある』


有佐『じゃあ、美柑と植田君と行くね』


 その日、学校が終わって校舎を出ると雨は上がっていた。そして、3人が居た。


「うわあ、なんかすごく懐かしい感じがする!」


 美柑が言う。


「そうだな」


「じゃあ、カフェ行くか」


 俺たちは4人でカフェに向かった。


 席に着くと俺は言った。


「でも、この4人で遊びに行ったことはなかったんじゃないかな」


「そうだっけ?」


 美柑が言った。


「そうだよ。これに奈保美も加えた5人ならあるけど」


 有佐が言う。


「そっか。もう忘れてきてるな」


「……私はよく覚えてるから」


 有佐はそう言った。まあ、俺もそうだな。よく覚えてる。


「でも、こうやってみんなでいると昼休みを思い出すよ」


 俺は言った。


「だね。楽しかったな。萩原っちがいたのは短かったけど、そんな気がしないもん」


 美柑が言う。


「で、今日は何なんだ?」


 俺は聞いた。


「萩原っちがあれからどうすごしたのか、聞きたいと思って。みんなで聞けば、一度で済ませられるでしょ」


「そうだな……だけど、奈保美と相良はいないぞ」


「ミッチーは福岡だし、私が伝えるから。奈保美は……別に聞きたくないって」


「まあ、そうか。たいしたことはない話だけどな」


 俺はおじさんの店を手伝ったこと、定時制に通ったこと、専門学校のこと、などを話した。


 話を聞いた美柑は言った。


「そっかあ、いろいろあったね。で、専門学校卒業したらどうするの?」


「そりゃ就職する」


「地元? それとも県外?」


「県外……のつもりだったんだけどな」


 俺は有佐を見た。


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