第26話 金曜日
そして金曜日。高田有佐は登校してきていた。
「おはよう、有佐。大丈夫なの?」
「うん……大丈夫」
「少しやつれてない? 目に隈も……」
「ちょっと寝不足かもね」
女子たちに心配されていた有佐の様子は憔悴という感じだった。
俺もさすがに心配になった。思わず立ち上がる。だが、そこに奈保美が来た。
「どこ行くの?」
「いや、有佐のところに……」
「自分から行くのは反則じゃないかな。あくまで有佐が自分で何かをしてくるか、よ」
「……わかってる」
俺は席に戻った。
そしていつも通りの昼休みが始まった。俺はこのとき、知らなかった。これがみんなと話す最後の昼休みになるということを。いつも通りに始まった昼休みは、食べ終わった後の有佐の言葉で動き出した。
「萩原君、ちょっといいかな」
「え? 何?」
「少し話したいんだ。ちょっと、出ようか」
有佐が立ち上がった。俺も立ち上がる。そこに奈保美もついて来た。
「私がついて行っちゃだめなこと話すつもり?」
「……ううん、奈保美も居てもらった方がいいと思う」
「わかった」
俺たちは3人で体育館裏に向かった。
「それで、何の話?」
奈保美が言う。有佐が話し出した。
「ごめん、奈保美。そして萩原君。今更こんなこと言って」
「何?」
「萩原君が奈保美と付き合いだして正直ショックだったんだ。恋人としての二人を見て、自分でもびっくりするぐらいに落ち込んだの。昨日はもう学校に行けないぐらい沈み込んじゃった……」
有佐の目に涙が浮かんでいた。
「悩んで悩んで、でもこうするしかないと思う。これは私のわがままだからどういう返事でも構わない。そして、これを言うことでみんなを困らせるのも分かってるけど私にはこうすることしか出来ない」
「わかったわ、有佐。私はいつでもあなたの味方よ。だから言って」
奈保美が言った。
「うん……萩原君。私と付き合ってください」
有佐が言った。
「それは……どういう……だって、俺を振ったよな」
「ごめん。あのときは関係を変えたくなかったの。だから、告白を無かったことにしたかった。でも、奈保美と付き合っているところを見たことで、ようやく気がついたの。萩原君が自分の中でどういう存在になっているか……私、ずるいよね。今更こんなこと言って。だから、振ってください。それで吹っ切れるから」
「そんな……」
「――賭けは私の負けね」
奈保美が言った。
「賭け?」
「うん。実は有佐がもし付き合おうって政志に言ってきたら、私は別れるって約束なんだ」
「嘘……」
「ほんとだよ。ね、萩原君」
「そうだけど……でも……」
「約束は約束。私は二人の幸せを祈ってるわ。ということで、これで私と萩原君は終わりね」
「奈保美……」
「『麦島さん』でしょ。もう、奈保美とは呼ばないで。じゃあ、私は行くから」
奈保美は去って行った。
俺は追いかけようとするが、そこを有佐に腕を捕まれた。
「今の話、本当なの?」
「ああ、本当だ」
「そっか……だったら、私と――」
「でも、俺も混乱している。ちょっと待ってくれないか」
「う、うん……そうだよね」
俺はこのあと、そのまま学校を早退した。
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