2-3

「え、二人とも知り合い?」

 俺と三木が互いを指差しながら驚いているのを見て、このエキサイティングな店長さんも、さすがに状況が飲み込めずに困惑していた。

「な、な、なんで水上がここにいるんだよ! またボクをストーキングしてたのか!?」

「ち、違うって! 三木の方こそなんでここにいるんだよ! それにその格好も!」

 まじまじと三木の格好を見つめる。

 想像されるメイド服よりは大人しめの制服(コスプレ感があまりない)。

 茶色のワンピースに白のヒラヒラしたエプロンを合わせたもの。スカート丈は長めで、かつ白のタイツで足が覆われているため、三木の生足を拝むことはできない。

 なんというか可愛くはあるけど、エロくはないといった感じの装いだ。いや、別に男の三木にそんなものは求めてないけど!

「こ、これは……! は、恥ずかしいからあんま見んなよ……!」

 三木は恥ずかしそうに胸のあたりで腕をバッテンにクロスして、恨めしそうな目でこちらを睨んでくる。しかし、瞳をうるうるさせているせいで凄みは一切ない。

「見るなって言われても、やっぱ目につくし」

「な、なんだよ。やっぱり変か……?」

「いや変じゃないよ。ふ、普通に似合っている……と思う」

 完全にどストライクだわ。なんで男なのにこんな可愛いんだよ。こんな可愛い男が存在するなら、地球上に女なんていらないだろ(極端)。

「ほ、褒めたって何もでないからな! それにそんなことはどうでもよくて! なんで水上がここにいるのか、ってことに対する回答をもらってないぞ!」

「俺はバイトの面接に……」

「ま、まさか……ここでバイトするってわけじゃないよな!? そもそも水上がなんで川越でアルバイト探しているんだよ!?」

「いや、川越が地元だし。俺も三木がいるなんて知らなくて」

「なんということだ。水上と地元が一緒だったとは……」

「なんか悪い」

 知っていたならバイトの面接になんて来なかった。

 自分を毛嫌いしている人間のいる職場で、誰が働きたいと思うんだ。

「店長! まさかこいつを雇ったりしないですよね!?」

「…………」

 店長さんは難しそうな顔をして押し黙っている。

 正直、現従業員から嫌われているというのはマイナスポイントだろう。トラブルも起きかねないし、触らぬ神に祟りなしというのが普通の対応だ。

 それに、俺自身ももうここで働くのは無理だと思っている。さすがに三木と一緒に働くというのは厳しい。そんなのは針のむしろだ。

「すみません。その、コーヒーごちそうさまでした。それと本日はお時間いただきありがとうございました。今度また、客としてお邪魔させていただければと思います」

 この空気感が耐えられないので戦略的撤退を決断する。まだ面接は始まってすらいなかったが、もう不合格という前提で話を進めたほうが早そうだったからだ。

「水上クン。待って」

「……はい?」

「————————うん、なんか面白そうだし合格。採用ということで」

「「ええええええええええ!?」」

 本日二回目の絶叫。もちろん今回も俺と三木によるものだ。

「いやいや店長! ボク、こいつとうまくやっていく自身ないですって!」

「そ、その三木もこう言ってますし」

「あのな、遥ちゃん。それに水上クンも。アルバイトってのは気軽なものに思えるかもしれないけど、一応は社会の一員として働くことになるんだよ。んで、社会では嫌いな相手、気にくわない相手、馬が合わない相手とも一緒に働くが必要があるわけだ。相手が苦手だから僕、私は働けませんってのは通用しないわけ」

「「…………」」

 あまりの正論に言葉が出ない。

「だから、店長の俺が必要と判断したから、水上クンは採用します。異論は一切認めません。————————それに、これは余計なお世話かもしれないけどさ。水上クンと遥ちゃん、側から見たらすごく仲よさそうだったけどね?」

「「そんなことないです! ……あ」」

「ほら息ぴったりじゃん」

 俺も三木もバツが悪くなって頬をかいた。

「……わかりました。それが店長の判断であればボクは従うだけです」

「ありがとね、遥ちゃん。ということで水上クン、よろしく! ちなみに偉そうなこと言ったけど、採用理由の八〇%くらいは水上クンの見た目がタイプってことだから」

「その採用理由はなんだか複雑なんですが!?」

 店長さんは変な人だが悪い人ではなさそうだ、と思った。

 最後の発言は、シリアスな空気を壊すための店長なりの気遣いなのだろう。

「よし、じゃあ仲直り? というかこれからよろしくの握手をしようか! もちろん水上クンと遥ちゃんがね!」

「「…………」」

 俺と三木は目を合わせる。これからどうなるかはわからない。

 それでも、これが三木と仲良くなるきっかけになればと思っている。そんな風に三木も思ってくれていたらそれ以上に喜ばしいことはない。

「よろしく、三木」

「……あぁ」

 差し出した俺の手を三木が握る。

 最初に感じたのはひんやりして気持ちがいいなということ、男にしてはかなり小さい手をしているなってこと、すべすべしていて全く不快感がないなということ。

 女子の手みたいで、めちゃくちゃドキドキするんですけど!

 俺、今絶対に顔赤いと思う。……っていうか、三木も顔を赤くするなよ! 余計こっちまで恥ずかしくなるわ!

 相手が男だとわかっていても、こんな格好をされると——————

「というか、そもそもなんで三木が女子用の制服着ているんですか!?」

「え、可愛いから?」

「そんな簡単な理由で!?」

 やっぱりこの店長はちょっと……いや、かなり変わっている。

 しかし何はともあれだ。

 こうして、俺がマイプレイスで働くことが決定したのであった。

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