『創造力』でスローライフを謳歌したいものの、パチンカス魔王とかニート竜王とかが邪魔してくる。
林檎茶
一章 俺がマイホームを建てるまで
001 招かれざる客ども《スローライフ・インベーダーズ》
「おい、そろそろ起きろよ。俺が眠れないだろ?」
目の前のベッドでは、ぐちゃぐちゃになった布団を抱き枕のようにして眠る女性が、幸せそうな顔で寝息を立てている。
肩を揺すってみたり、布団を剥ぎ取ってみたりしても、まったく起きる気配がない。
彼女の頭部からは、大きな角が二本、真紅の美しい髪の間から突き出ている。
もういっそ、この角を掴んでブンブン振り回してしまおうか──などと考えながら俺は溜息を吐いた。
すると俺が作った“ある機械”で遊び続けていたもう一人の女性が、こちらに視線も寄越さず口を開く。
「フォリエはずっと、固い岩の地面で寝ていたのだ。そんなふかふかのベッドの感触を知ってしまったら、もう戻れまい。エイト、お前も罪な男よ」
「うるせえ。お前も早く帰れよ……
「次に
「合ってるよ……って、2000ハマり⁉︎ 319でそれだけ当たらないって、一種の才能だぞ?」
俺は、彼女が釘付けになっている『eパラダイス 社畜の成り上がり -20連勤に抗え-』のデータランプを見て、思わず声を上げた。
大当たり確率は319分の1。つまり、2000回以上も回して当たらないなんて、そうそう起こることではない。
「おっ。激アツ演出が来たぞ。先バレなしでこの演出は、大当たりからのラッシュ突入濃厚だろう」
と、ちょうどいいタイミングで演出が始まったらしい。
「これが終わったら帰る」とのことなので、ラッシュ獲得などという余計な流れは本当にやめてほしい。
……という俺の願いは、やはり叶いそうになかった。
「…………ほれほれ、来た来たァ! うおおおおおお! この魔力が一気に体に流れ込む感覚、堪らん! 2000回転分の魔力、全部吐き出させるぞオラァ!」
彼女は『超連勤3000パラダイス』と表示されたカラフルな画面を見て仰け反り、歓喜の声を上げている。
地面に着くほど長い白銀の髪が乱れ、芳しい香りがふわりと鼻をかすめた。
このパチンカスの正体は、魔王である。
──魔王、アレイシア=ディストルテ。
こんなのが魔王? 普段は冷徹で凛々しく、魔族たちの憧れの的だと自称していたが──どう見ても、その面影はない。
まあ、黙っていれば本当に美人なのだが。
そんなことを思いつつ、腕を組んでアレイシアを眺めていたその時、ピピピピという音と共に台の音量が跳ね上がった。
「おい、当たりの時だけ音量を爆上げするのやめろ! 耳がぶっ壊れる!」
「良いではないか。これはラッシュを引き当てた者の特権だ!」
もはや大声でないと会話もできないほどの爆音が、木造の小さな一軒家を震わせている。
「本当にうるせえ……出禁にしたいぞ……」
という俺の声は、派手すぎる大当たり演出の『頭が悪い音』に掻き消されて、アレイシアには届かない。
「むにゃむにゃ……う~ん。お腹空いた。エイト、ごはんちょうだい」
ベッドを占領していた奴も、騒音に耐えかねて起きてきたようだ。
右手で眠たげな目をこすりながら、左手で「ぐー」と鳴った腹をさする──まるで欲望の権化のようなこの女性の名は、フォリエ。
竜王。フォリエ=アナスターシャ。
起きるなり俺の腰をポカポカ叩いて、キッチンに向かうよう催促してくる。
……はあ、仕方ない。何か一品作ってやるか。
「私にもカラアゲを頼む。おっと、酒も忘れるでないぞ」
「お前、いい加減早く帰れよ」
図々しいにもほどがある発言に、再び深いため息が漏れる。
「もう一度だけ、大当たりを引いたら帰ろう」
そういえば静かになってると思ったら、いつの間にかラッシュが終わっていた。
「さっきもそう言っていただろ」
「大ハマりをかました後はすぐに当たりが来ると相場が決まっているのだ」
再び音量を下げて通常演出を眺め始めたアレイシアを見て、俺はまたひとつ、大きな溜息をつく。
「マジでふざけんなよ……」
そう言いながらも、俺はもう唐揚げの下味をつけ始めていた。
パチンカス魔王と、ニート竜王。
せっかく異世界でスローライフを始めたというのに、こいつらが俺の家に居座るせいで、すっかりハードライフになってしまっている。
本当に、困っている。
そもそも──どうして俺がこんなことになっているのか。
順を追って説明しよう。
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