第14話 すれ違いの先に、答えはなかった

第14話 すれ違いの先に、答えはなかった



ある晩。仕事帰りに立ち寄った静かなレストラン。キャンドルの灯りが揺れる中、柴田優人は小さな箱を差し出した。


「田島さん……いや、美咲。結婚しよう」


一瞬、時間が止まったようだった。美咲は驚きと嬉しさ、そして言いようのない不安が入り混じった表情を浮かべた。


「ありがとう……でも、少し考えさせてほしい」


その場での返事はできなかった。

彼の目は、少しだけ曇った。



ちょうどその頃、美咲は新規大型プロジェクトのチームリーダーに抜擢されていた。


女性向け複合施設のリブランディング——彼女がずっと目指していた“影響力のある仕事”だった。


会議、調整、クレーム処理、チーム内の衝突——すべてが責任となってのしかかる。


柴田とゆっくり過ごす時間も、まともなLINEの返信すらもままならなかった。



ある夜、柴田の部屋。

久しぶりに会ったはずなのに、空気はぎこちなかった。


「最近、全然顔見せてくれないね。俺たち、何なんだろうって考える時間の方が増えたよ」


「ごめん……でも今は、このプロジェクトがすべてなの。これを成功させないと、私……」


「じゃあ、俺との未来は“その先”か?」


美咲は黙って下を向いた。

沈黙が、何よりも重かった。



数日後の夜、美咲は自分の部屋で、プロポーズの指輪をそっと机に置いた。

隣には、便箋に綴った手紙があった。


——ごめんなさい。

私は、今はあなたと同じ未来を見られない。


誰かを幸せにする前に、自分の道をまっすぐ歩きたい。


電話ではなく、LINEでもなく、美咲は“手紙”で答えを返した。それは誠実で、でも取り返しのつかない選択だった。



春。プロジェクトは成功を収め、美咲はメディアにも取り上げられるようになった。


でも、どこかにぽっかりと穴が空いたままだった。


一方、柴田も変わらず会社を成長させていた。


彼のオフィスのデスクの片隅に、一枚の写真が残っていた。美咲と並んで撮った、夜景の見える物件での記念写真。


今はもう、連絡を取っていない。でも、お互いが“本気だった”ことだけは確かだった。



― すれ違ったからこそ、深く愛した

別れたからこそ、自分を取り戻せた

そしてそれぞれが、未来へ歩き出した ―


ー 第15話へ続く ー

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