第12話 最後のコーヒー、最初の一歩

第12話 最後のコーヒー、最初の一歩



金曜の夕方、美咲のスマホに一通のLINEが届いた。差出人は佐々木翔太。


《今夜、時間ある?話したいことがあるんだ》


「……うん、わかった」


返事を送る指は少し震えていた。

彼がこうして“真面目なトーン”で連絡してくるのは、初めてかもしれない。



待ち合わせは、2人が何度もランチをした小さなカフェ。


美咲が着くと、佐々木はすでに席に座り、カップを両手で包んでいた。


「……来てくれて、ありがとな」


「ううん。こっちこそ、ありがとう」


少しの沈黙が流れる。

それを破ったのは、佐々木だった。


「俺、田島のこと……ずっと好きだった」


それはまるで、ずっと握っていた小石をそっと手放すような、静かな告白だった。



「知ってた。……ううん、感じてた。」


美咲も、まっすぐ見返す。


「でも、私は……ごめんね。翔太さんを“先輩”としてしか、見られなかった」


言葉が刺さらないわけじゃなかった。でも、それが現実だった。


佐々木は、笑った。


「だよな。俺も、わかってたよ。でも……ちゃんと聞きたかった。“終わり”を、自分の耳で」


美咲は小さくうなずいた。

その瞳には、申し訳なさよりも、感謝がにじんでいた。



カフェを出て、駅へ向かう途中。信号待ちの交差点で、佐々木が最後に言った。


「田島、あいつ(柴田)なら大丈夫だよ。真面目すぎて不器用だけど、あいつなりに全力で向き合ってるの、わかる」


「……ありがとう、翔太さん」


「……そろそろ“翔太さん”って呼ぶの、やめろよな」


「じゃあ、“佐々木先輩”で」


信号が青になり、2人は違う方向に歩き出した。


それが、優しさで包まれた**“さよなら”**だった。



― 誰かをちゃんと諦めることで、誰かをちゃんと愛せるようになる ―

そう信じて、彼女は次の一歩を踏み出した



ー第13話へ続くー

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