第9話 崩れそうな夜、手を伸ばしたのは…

第9話 崩れそうな夜、手を伸ばしたのは…



9月下旬、アーバン・リンクスの会議室。


プロジェクトリーダーを任された美咲は、複数の物件とクライアントの調整に追われていた。


「納期、1週間前倒し……?それって、先方の意向ですか?」


「いえ、田島さんのプレゼンが良すぎて、“早く欲しい”って……」


部下の言葉に、笑ってみせる美咲。

けれど内心では、頭がぐらりと揺れていた。


(スケジュール、もうギリギリなのに……どうやって調整すれば……)



その週末、柴田と会う約束をしていた。けれど、美咲は待ち合わせに30分遅れ、スマホばかり気にしていた。


「ごめん……納期の件が気になって、頭が働かない。」


柴田は微笑んで言った。


「気にするなって言いたいけど、それが君の“仕事スイッチ”なんだろ?」


「……うん。でも、限界かも。」


ぽつりと漏らした一言に、自分でも驚いた。


柴田は、その場で何も言わず、ただ静かに手を取った。



月曜夜9時、美咲は社内で1人、会議資料を印刷していた。


プリンターが止まった瞬間、涙がぽろりとこぼれた。


(もうやだ……全部、うまくいかない……)


資料を抱えて外に出たとき、スマホに柴田からのメッセージが届いた。


>「そろそろ限界でしょ。駅前のカフェ、10分だけ顔見せて。」


涙を拭って走った。

カフェの窓際に、彼はすでに座っていた。ノートPCを閉じて、席を立つ。


「もう、何も言わなくていいから。今日は、“俺の話”を聞いてくれる?」



カフェの外、柴田は言った。


「俺だって、初めての資金調達のとき、何度も泣いた。でも、そのとき思ったんだ。『しんどい』って言える人がいるって、すごく大事だなって。」


「……私、今、怖いんです。任されたのに、結果が出なかったらって。」


「じゃあ、怖いって言ってくれ。そして、“頼っていい相手”がここにいるってこと、忘れないでほしい。」


美咲は、ようやく声を出して泣いた。


この人の前なら、強がらなくてもいい——そう思えたから。



プロジェクトの山場を越えた後、社内で美咲が言った。


「リーダーって、“全部できる人”じゃないんだと思いました。“頼れる人をちゃんと頼れる強さ”が、たぶん、本当の強さなんだって。」


佐々木翔太がそっと頷いた。


「それに気づいたなら、もう大丈夫だな。」


帰り道、美咲は柴田と歩いた。


肩を並べて笑うその距離は、前よりずっと自然だった。



― 壁を越えたから、2人の絆は“対等な強さ”になった ―


ー 第10話へ続く ー

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