第68話 イベント発生
翌朝、目が覚めた。
幸いにもレオはいない。
またレオが寝ぼけてボクの布団に入ってきているんじゃないか、と覚悟していたがどうやらそうではないみたいだ。
「おはよ、カナタくん」
顔を上げるとすでに服をきちっと着込んだレオがいた。
どうしてこんなに朝早くからそんなにきちっと身だしなみを整えているんだろう。
「おはよう。なんでそんなに早く起きてるん?」
「えっ? えーっと……うん、たまただまよ。たまたま」
そう言うレオの声はどこかぎこちなかった。
「? そっか」
特に気にすることなく朝食を終えた後、ダンジョンの入口へと向かった。
今日の日程も一日ダンジョンでの訓練で埋まっている。
ダンジョンに向かう途中、多くの一年生と一緒に歩くことになるけど、大まかに二分されていた。
ケロっとしている生徒と、テンションが下がっている生徒だ。
前者は戦闘慣れしていて別にダンジョンに潜るのが苦じゃない生徒。後者は普通にダンジョンに潜るのが苦になっている生徒たちだ。
「チームが揃った人たちから先生に報告してダンジョンに潜ってくださいね~!」
ダンジョンの前に到着すると担任が大声でそう言っている。
「みんな、準備はできてるかしら?」
「ボクは大丈夫やで」
「ぼくもいけるよ」
「私も大丈夫だよ」
リリィの問いかけにボクたちはそう返す。
しかし、ダンジョンに潜ろうとしたところで、ボクたちの背中を呼び止める人物がいた。
「あらリリィさん。あなた達も準備ができましたのね」
特徴的なお嬢様口調。
予想通り振り返るとそこには金髪縦ロールのお嬢様、アリシア・ゴールドバーグがいた。
脇にはゴツいゴージャスな飾りが施された戦斧を持った男子生徒が付き人のようについている。戦斧は人の背くらいあるので、めちゃくちゃ重そうだ。
そしてアリシアの両脇には片膝をつきながら大きな扇を持ってゆったりと扇いでいるキョドとカマセ。
なにをやってるんだこの二人は。
「なにをやってんのふたりとも」
ボクが訊ねると二人はアリシアを扇で扇ぎながら答えてくる。
「ハッ! 羨ましいかルナール!」
「俺たちはな、ゴールドバーグさんに拾ってもらったんだ!」
どうやら余ってたところをアリシアにチームに入れてもらったらしい。
「そのおかげで俺たちのチームの順位は一位だぜぇ!」
「バーカバーカ! アホ! 間抜け!」
キョドとカマセが凄いゲスい笑顔で煽ってくる。
語彙力は小学生並みだけど。
そのとき、ピシャリとアリシアが扇を閉じ、二人に鋭い視線を注いだ。
「おだまりなさい。私の教えを忘れまして?」
「も、申し訳ありませんボス!」
「私たちが間違っていました!」
即座に謝るキョドとカマセ。飼いならされている。
二人の謝罪にアリシアは鷹揚に頷く。
「何事においても美しく。たとえ順位が一位だからといって、相手を侮るような言葉は美しくありませんわ。そう、たとえ相手に一位を取る気がない弱気な状態になっていたのだとしても」
アリシアはそう言って、思わせぶりにリリィの方へと視線を向ける。
リリィの眉がピクリと動いた。
「……なんですって?」
アリシアは釣り糸に魚が引っかかったときのような顔で、口元に手を当てて笑う。
「あらあら、どうかいたしましたか? なにか気になるところでも?」
「私達に一位を取る気がないっていうのはどういうことかしら?」
リリィがそう言うと、アリシアはニッ、と笑みを浮かべた。
「あらぁ、これは失礼いたしましたわ。私、特段誰かを指して言ったつもりはないのですけれど。気分を害されたなら謝りますわ。でも気分を害された、ということはそれはつまり心当たりがある、ということなのではなくて?」
顎を天に向け、口元に手を当てると、「おほほほほ」と、まるで悪役令嬢みたいに笑うアリシア。
「おっと、いけませんわ私ったら。いくらリリィさんは一位を取るつもりがないと言っていたとはいえ、図星を突くなんて美しくありませんわ。最初から一位を諦めてらっしゃるリリィさんが可愛そうですものね。それではごきげんよう。今日も一位は私が取らせていただきますわー!」
そう言ってアリシアたちは去っていった。
すごい煽ってくなぁ、と思っていると、ふと視線をリリィに移った。
俯いて地面を見つめている彼女の肩がプルプルと震えている。
「…………うんうん、なるほどね。ぜんっぜん効いてないけど。そっかそっか」
虚ろ気な目で地面を見つめているリリィはブツブツとなにか呟いていた。
正直怖い。
どっちか話しかけてくれない? とレオとセレーネに目で訴える。
ふたりとも凄い勢いで首を横に振った。
仕方がないのでボクは恐る恐るリリィに声をかける。
「あの、リリィさん……?」
「なぁに?」
ボクが恐る恐る振り返るとリリィは満面の笑みで振り向いた。
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫ってなにがよ。別に私はなんともおもってないけど? おかしなこと言うわね、ふふ」
公爵令嬢らしく上品に笑うリリィ。
しかし額に浮かんだ青筋は隠せていない。
リリィは「ちょっと三人にお願いがあるんだけど」と前置きして、ボクたちに言った。
「一位、取りに行っていいかしら」
「……はい」
リリィの顔を見て、誰もその意見に異を唱えることはできなかった。
***
ダンジョン二日目。
一日目で上の方の魔物は掃討されているので、一日目に進んだ場所まで降りるのは結構簡単だ。
といっても徒歩で下ることになるので、そこそこ面倒くさい。
(転移の魔法陣が使えたらええんやけど無理やしなぁ)
百狐夜行で独自に開発した転移魔法陣なら、ダンジョンで進んだ位置に魔法陣を設置して、また再度転移して帰ってこれる。
便利なんだけど、転移魔法陣は機密中の機密なのでおいそれとは使えない。
ある程度の不便さは許容して、ボクはダンジョンを潜っていた。
ダンジョンはかなり速い速度で攻略が進んだ。
無茶をしているわけじゃなくて、単純にこのチームの力が凄いのだ。
ボクは言うまでもないけど、リリィとレオの実力は一年生の中でも上位だし、セレーネは固有魔法が回復系でありながらエルフの得意な魔術を使って一年生のトップ10に入るほどの実力がある。
つまりそこら辺にいる魔物なんてただの雑魚なのだ。
一日目はあえてゆっくりしていただけということだ。
二日目、特にすごかったのはリリィだ。
地上での怒りを散らすようにド派手に魔物を蹴散らしている。
その火力はレオですら出る幕がないほどだった。
そうして破竹の勢いでダンジョンの攻略を進めていたボクたちは、とあるアクシデントに遭遇した。
洞窟の奥から声が聞こえてくる。
「今の声って……」
目の前に現れたスライムを斬ったリリィが気がついたように顔を上げる。
ボクも聞こえていたので頷いた。
「悲鳴、やなぁ」
「ぼくも聞こえたよ。多分ボクたちと同じ一年生の声だよね」
「悲鳴ってことはなにかあったってことだよね? 助けに行ったほうがいいかな?」
(来た、レオのイベントが……!)
ボクは内心で盛り上がっていた。
これはダンジョンの実習でレオが遭遇する突発イベント。
ゴブリンとは違って、ちゃんとシナリオの中にあるイベントだ。
「ボクは判断は任せるわ。どっちでもええし」
早々にボクは判断を任せる。
ボクがイベントのところまで引っ張ってもいいけど、そんなことをしなくてもレオはちゃんと生徒たちのところへと駆けつけることを知っている。
「助けに行こう!」
ボクの予想通りレオはそう言った。
「せやなぁ。ボクら一年生の仲間が助けを呼んでるわけやし、助けたらな薄情やもんな」
ボクも全力で乗る。
現状、シナリオから色々と外れているんだから、わざわざここでシナリオと違う行動を取る必要はない。
「私も助けてあげたい!」
セレーネも賛同する。
リリィも頷いた。
「私も助けに行くのに賛成するわ」
四人全員の意見が一致したので、ボクたちは悲鳴が聞こえた方向へと向かうことにした。
急いで走って向かう。
しばらくすると強い魔物の気配が大きくなってきた。
「いたよ! 魔物に襲われてる!」
レオが声を上げる。
(うんうん、イベント通りの魔物がおるなぁ)
ボクたちの視線の先には、洞窟の先に悲鳴の元であろう生徒たちと、大きな身体の魔物がいた。
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