第6話 ギルドでの難癖
振り向くとそこには大柄な冒険者が立っていた。
その顔には嗜虐的かつ、ギラついた欲望が浮かんでいる。
「それはつまり弱ぇ奴はお断りだ、って言いたいんだよガキ」
「弱いって、ボクが?」
「そうだよ。いいか? ここはお前みたいなガキが来る場所じゃないんだよ。さっさと家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」
おっさんが親指で扉の方を指差す。
どっ、とギルドの中で笑いが起こった。
「まあ、どうしてもって言うなら俺が口を聞いてやらんこともないぞ? そっちの姉ちゃんはまだ成長しきってないが……身体のほうはそれなりだ。そっちの姉ちゃんが相手してくれるって言うなら、考えてやらんこともないぜ?」
おっさんはコレットの身体を舐め回すように頭から爪先まで見て、ぺろりと舌なめずりをした。
醜い欲望を隠そうともしていない。
コレットが不快そうに眉をひそめた。
「お姉さん、そうなん?」
ボクは振り返ってギルドのお姉さんに質問する。
「ええと……まあ、はい。砕いて言えばそういうことになります」
お姉さんは言うい辛そうにしていたが、最終的におっさんの言葉を肯定した。
まあ、ぶっちゃけるとそういうことなのだろう。
ギルド側も魔物に襲われて死ぬような人物を加入させることはできないだろうし、今のボクの見た目は子どもだ。
「じゃあ、ボクがそれなりの実力を証明すればええわけか」
「えっと、それはそうですけど……」
「そっか、それやったら──」
ボクは振り返る。
「おい姉ちゃん、ちょっと付いてこいよ」
魔力で身体強化。
わざわざ『紫電』を使う必要はない。
そしてコレットに手を伸ばそうとしているおっさんの顔面を横から蹴り飛ばした。
「ぐべっ!?」
つま先がおっさんの顔面の真横に突き刺さる。
おっさんは声を上げながらふっ飛ばされ、机を巻き込みながら壁に激突した。
受付嬢のお姉さんも、ギルドの他の冒険者もぽかんとした顔になっていた。
唯一驚いていなかったのはコレットだけだ。
壁に激突したおっさんを見て「あと1秒で私がぶっ飛ばしてるところでしたよ」と不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。
「これで実力の証明ってことでええか?」
お姉さんにボクは訊ねる。
その声で復帰したお姉さんは慌てて首を縦に何度も振った。
「はっ、はい! 大丈夫です!」
お姉さんは急いで冒険者登録の準備を始めた。
本来ならここで実力確認の試合というイベントをこなすのだろうが、試合の準備にも時間はかかる。
なにより、ボクはそんなに待ちたくない。
「ぼ、冒険者登録の準備が整いました!」
「はい、ありがとう」
ボクとコレットは冒険者登録を終わらせる。
そしてどこか畏怖のような視線を向けてくる冒険者たちを尻目に、ギルドから出ていったのだった。
その後は真っ直ぐダンジョンの方へとやってきた。
森の中にある小さな石組みの入口は、真下へと階段が続いている。
これがダンジョンの入口だ。
「ほな最短攻略でいこか」
「え、もしかしてまたランニングですか……?」
「安心し、ちゃんと一番敵が少ないルートを選んでるから」
「そういう問題じゃないんですけど……」
「ほないくで」
魔力で身体能力を強化してかっ飛ばす。
階段を駆け下りていると、前方にスケルトンの群れが現れた。
「カナタ様、前方に敵です! ここは私が……」
剣を抜いて前に出ようとしたコレットがスケルトンに攻撃を仕掛ける前に、ボクは軽く腕を振った。
魔力の刃が飛んでいき、スケルトンの群れを破壊する。
その光景を見ていたコレットがなんとも言い難い表情で訊ねてきた。
「…………カナタ様」
「なんや?」
「今の、なんです?」
「魔力の刃を飛ばしただけやけど」
「……私の記憶が正しければその技、達人級のやつだったような気がするんですけど」
「へー、そうなんやね」
その後も目の前に出てきた魔物を蹴散らし、手早くダンジョンの下へ下へと潜っていく。
記憶の中にあるダンジョンのマップを思い出しながら、目的のアイテムがある場所へと最短距離で進む。
そしてついにその場所へとやってきた。
「お、ここやな」
「ここって……行き止まりじゃないですか」
目の前の光景を見てコレットが声を漏らした。
ボクがやって来たのは迷宮の行き止まり。
石ブロックを積み重ねた壁により、これ以上先に進むことは出来ない。
「……カナタ様、本当にマップを覚えてるんですか? まさか私を騙したんじゃ……」
「ちゃうちゃう。ちゃんと理由があってここに来たんやって」
ほんとですかぁ? と言いたげなコレットの視線を受けながら、ボクは壁の不自然に出っ張った石ブロックを、順番にいくつか押していく。
すると……。
「う、うそ……」
音を立てて壁が開き、向こう側に隠し部屋が現れた。
コレットは唖然とした表情で隠し扉を見ている。
隠し部屋の中は人がかろうじて暮らせるだけの広さがあり、ボロボロになった木の机や寝袋が置いてあった。
そして壁に寄りかかるようにして骸骨が座り込んでいる。
その手には漆黒の鞘に納められた日本刀が握られていた。
これがボクがこのダンジョンにきた目的のひとつだ。
「もらっていくけど堪忍な。ちゃんと大事に使うから」
ボクは名も知らぬ骸骨の手から日本刀を貰い受ける。
ゲームの中でも隠しアイテムとして置かれていた日本刀。
その割に特殊能力もなく、ちょっとした業物くらいのクラスの武器なので、ゲームをしているときには全く見向きもしなかったが……。
「う~ん……やっぱり馴染むなぁ」
ぶんぶんと試しに振ってみると、日本刀の手に馴染むこと馴染むこと。
やっぱり東方の島国の血には日本刀がぴったり合う。
するとコレットが異質なものを見る目でボクを見てきた。
「……なんでこんな場所知ってるんですか」
ボクは口元に人差し指を当てる。
「男の子のヒミツや」
「ぶっとばしますよ」
怒られた。なんでや。
ボクが話さなかったことでこれ以上は詮索しないことに決めたのか、彼女は深く息を吐いて話題を変えた。
「というか、もしかして他の剣に浮気するつもりですか」
「なんや浮気って。どっちも同じ剣やん」
「れっきとした浮気ですよ! 私があんなに頑張って教えたのに。お姉ちゃんは悲しいです」
コレットはそう言ってメソメソと嘘泣きを始めた。
「お姉ちゃんに「コレットが教えてくれた剣が一番だよ」って言って欲しいなぁ。チラッチラッ」
わざわざこっちを伺いみてくる。
なんやうっとおしい……。
「コレットが教えてくれた剣が一番だよー」
「まあいいでしょう」
「こんなんでええんか……」
そんな茶番を繰り広げた後、またダンジョンの地下へと潜り始めた。
今度こそ最短距離で寄り道は一切せずに降りておく。
そしてついにダンジョンの一番地下……つまりはボス部屋の前にたどり着いた。
「ここがダンジョンボスの部屋……」
コレットは目の前の大きな扉を見て呟く。
「さ、さっさと倒して帰ろか」
ボクは扉を開けて中にはいった。
中は広場になっており、壁には松明が掲げられている。
そして広場の真ん中にはモンスターがいた。
骸骨の身体にボロボロのローブ。
眼球のない眼窩にはうっすらと仄白い炎が灯り、ゆらゆらと揺らめいている。
骨の手にはマジックアイテムと思われる指輪や腕輪が嵌められ、魔法の杖まで握られている。
アンデッドの王、リッチ。
それがこのダンジョンのボスだった。
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