第36話

●早朝(朝4時半頃/12月なのでまだ暗い)

御百度参りをしているひとりのお婆さん。

→お婆さんの正体は第2小隊パイロット・杉咲真由の祖母、杉咲佳代子、76歳。

→長野県小鹿村でひとり暮らしをしている(杉咲姓なので父方の祖母です)

→山間部にある小さな神社で毎朝、御百度参りをしている。


●孫・真由の無事を祈っている。佳代子の暮らす古民家の神棚には杉咲が佳代子に送った遺髪と爪が入った封筒が祀ってある。


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●回想シーン

●小学校6年生の杉咲真由が夏休みを利用して祖母・佳代子の家に里帰りしている。

●居間には真由と加代子のほか、杉咲の両親の姿もある(両親は東京大空襲で死亡)。


●佳代子の家に来た真由の楽しみは佳代子の書庫にある蔵書。


佳代子「読みたいのがあったら東京に持って行ってもいいよ」


真由「ううん、こうやって本棚にいっぱい本があるのを見るのも好きなの」


●たくさんの蔵書を眺めながら、真由は1冊の本を取り出す。

●夏目漱石「こゝろ」の初版本。


真由「表紙がキレイだから、これ読んでみる」


佳代子「真由ちゃんにはまだ難しいと思うよ?」


真由「……うーん、でもちょっとだけ読んでみたい」


佳代子「そ、じゃあ読んでごらん。わからない言葉があったらおばあちゃんに教えてね」


真由「はーい」


●本棚を背にちょこんと座り、ページをめくる幼い真由。

→回想シーン終わり


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●現代、御百度参りをする加代子の顔のアップ。

→神社に社に手を合わせている。


佳代子「どうか、どうか、真由ちゃんをお守りください」


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●場面変わり、タカチホ第参ベースの整備ドック。

●自機に乗り込んでいる杉咲に長澤が声をかける。


長澤「なにやってんの?」


杉咲「ちょっと読書を」


●杉咲、漱石の「こゝろ」の文庫を読んでいる。


長澤「…コクピットで?」


杉咲「――なんだか落ち着くんです。殻の中に入ってるみたいで」


長澤「ひよこかよ」


●ケラケラ笑う長澤に杉咲が訊く。


杉咲「長澤さんもどうですか?」


長澤「いいよ。本なんか読む趣味ないし」


杉咲「そうですか」


●杉咲、少し残念そうな顔で笑うがそれを気遣うよう長澤が言う。


長澤「早くそこから出て、のんびり本が読めようになるといいな」


杉咲「そうですね」


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●杉咲の笑顔につられるように微笑む長澤から回想シーンに入る。


●中央区勝どきにあるタワーマンション。

●高層階で暮らす中学3年生の長澤麻里奈(見た目はギャル)が学校から自宅に帰ってくる。

→両親は共働きのため部屋には誰もいない。


●真っ暗部屋に電気をつける長澤。

●スマホを取り出して暗い部屋に輝いているLINEの画面を見る。

→以下、LINEのやり取り


ママ「ごめんね! 遅くなります ご飯先に食べててね」


まりな「おつかれさま お仕事がんばってね」

(「おつかれさま!」とフキダシが出ている可愛いスタンプ)も押されている


●言葉とは裏腹に無表情の長澤、ふうと息をつく。


麻里奈「さて、晩飯は何食うかな〜」


●冷蔵庫を漁り、食材(玉ねぎと挽肉のパック)をいくつか出す。

●台所に立ち、料理をする長澤。

※21話で手際よくカレーを作った伏線の回収です。


●10畳ある広めのダイニングでひとりきりで晩ご飯を食べる長澤。

→作ったのはハンバーグ。綺麗な定食風に配膳されている。


●テレビを見ながら、ひとりで食事をする長澤。

→時間は午後9時をまわっている(時計のカット)

●長澤の父・幸伸がスーツ姿で帰宅。


麻里奈「おかえり。晩ご飯は?」


幸伸「済ませてきた」


●幸伸、それだけ言うと自室へ。デスクの椅子を動かし、PCを起動する音が聞こえる。→父・幸伸の仕事はシステムエンジニア。


●そんな父を無関心そうに眺める長澤。小さい声でつぶやくように言う。


麻里奈「あっそ」


●時間は過ぎ、深夜0時過ぎ(時計のカット)

●長澤の母・さゆりが帰宅。建築会社に勤める一級建築士。

→寝室でベッドに寝転がり、スマホの画面の眺めながら母が帰宅した音を聞いている長澤。父の時と同じように小さな声で言う。


麻里奈「……おつかれさん」


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●場面変わり、数年後の東京大空襲。

●長澤が暮らしていたタワーマンションが倒壊し炎上している。


●避難民でごった返す地下鉄ホーム(都営大江戸線勝どき駅)でスマホを取り出す長澤。→スマホの「災害用伝言ダイヤル」の画面のカット入る。


さゆりの音声「ママは無事です。まりちゃん大丈夫?」


幸伸の音声「会社にいます。みんな 無事か?」


●避難所で膝を抱えて座っている長澤、(煤や埃で顔が薄汚れている)音声を聞いてぽつりと零す。


麻里奈「……へぇ、あたしのこと心配なんだ」


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●場面変わり、現在。


●コクピットで本を読む杉咲の姿。

●整備ドッグではメカニックが慌ただしく作業をしている。

→その中には馨の姿も見える。


長澤「――ここのが居心地いいや」


●腰に手を当ててドックを見まわした長澤。薄く笑って自分にしか聞こえないように、しかししっかりとした口調で呟く。


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●場面変わり、東京都多摩市某所。

→セキュリティーが強化されたタワーマンションの一室

●マンションの一室に1LDKの部屋の至る所にサーバーが配置されている。

●12神アフロディーテ、アイドルグループ・スピカのセンターボーカルであるシオリがTシャツにショートパンツ姿で愛用のノートパソコンのキーを叩いて情報収集している。(サーバーの熱で部屋が暑くなるのでエアコンを付けているが、動きやすさを取っている私服)


シオリ「……へぇ。向こうの追っ手、意外と適格に動くじゃん」


●ノートパソコンの画面には防衛軍諜報部の機密情報が映っている(シオリがハッキングしている)。

●ノートパソコンに繋いでいるもう一枚のモニターには12神のプロフィールの一部(国籍・本名など)と現在の所在地(GPSによる座標)が示されている。


シオリ「アルテミスとポセイドンには居場所を変えるように伝えとくか」


●シオリ、アルテミスとポセイドンにメールを送信。

→可愛いピンク色のイルカのマスコットが手紙をくわえて泳いでいくPC上のイメージ


シオリ「うーん……親が私たちの情報を国に売った可能性もあるよな〜」


●以下。シオリの過去の光景のフラッシュバック。

●シオリを含む、父(警察庁長官)・母・2人の兄の5人家族の幸せそうなひとときのカット入る。

●しかし、シオリはひとりだけジレンマを感じていた。

→キャリアというだけで出世した保守的な父。そんな父に依存している母。成績は優秀だが、行動力が伴わない2人の兄(シオリの主観)。


過去のシオリ「私にはできる。貴方たちにできないことが」


●歌とダンスが得意だったシオリはアイドル業界をマーケティングリサーチし、自らをプロデュースしてアイドルグループ・スピカを誕生させる。


●SNSなどを駆使してインフルエンサーとしても活躍するシオリ。

●しかし、厳格で保守的な父はシオリの芸能界入りやインフルエンサーとしての活動を非難。父と口論になったシオリは家を出ていく。


現在のシオリ「12神私たちはいらない子どもたちだからね」


●ハッキングによる情報収集を終え、ブラウザを閉じてオリュンポスのメタバースに戻るシオリ。

→シオリは芸能界とオリュンポスという居心地の良い場所を見つけた。

●満足げな表情のシオリ、画面に映るアイコンに気づいてふと眉を寄せる。


シオリ「円卓会議室に……誰かいる?」


●姿は見えないが円卓会議室で声がする。

→シオリが自作したハッキング用のプラグインが動作して音声再生ウィンドウが開いている。


シオリ「この声…ゼウスと……ヘルメス?」


シオリ「議事録に残らない

お喋りは禁忌タブーでしょうが」


●ボリュームをあげて耳を澄ますシオリ。


ゼウス「聖なる子羊アグヌス・データの収集は順調?」


ヘルメス「ええ、皆の働きで多くの子羊が取集されています。これで 約束の日に

楽園開放は成就するでしょう」


ゼウス「さすがはヘルメス! 仕事が正確で助かるよ」


ゼウス「――1週間後のクリスマス・イヴに、世界を創り変えよう」


●PC画面とサーバーのランプだけが光っているシオリの部屋。


シオリ「『アグヌス・データ』……って なに?」


●シオリの疑問の声でEND




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