第29話
●同日、タカチホ第参ベースパイロット控え室。
●いくつかのパックと茶封筒が入った透明な袋を持った長澤が杉咲に問いかける。
長澤「さっき仲村班長が配ったこれだけど」
●馨が透明な袋を配る回想カット。
長澤「なんで髪の毛と爪をこれに入れるの? キモくない?」
●長澤が袋からつまみ出したのは形見封入用のパックとマニュアル。
杉咲「私たちが死んだ時の形見になるそうですよ」
長澤「え~……親とかこんなのもらっても喜ばなくね?」
杉咲「ウチ、そもそも死んじゃってますしね」
●茶封筒の裏表を見ていた長澤、椅子を引き出して杉咲の向かい側に座る。
長澤「あれ? 杉咲って両親いないんだっけ?」
杉咲「……はい。2年前の東京大空襲で2人とも」
長澤「あー……そっか、じゃあ髪の毛と爪誰が受け取るの?」
杉咲「ええと、田舎の……長野にいるおばあちゃん宛にするつもりです」
長澤「ふぅん……でも、孫が死んでも喜ばねぇよな」
杉咲「あはは、ですよね? 長澤さんはご両親宛ですか」
長澤「そうね~ま、私が今ここにいることは知らないと思うけど」
●マニュアルを眺めつつ、こともなげに言う長澤に驚く杉咲。
杉咲「え!? 黙って来ちゃったんですか?」
長澤「2人ともあんまり私に関心ないからね。もしかしたら私がいなくなってることにも気づいてないんじゃない?」
杉咲「そんなことないですよ! 子供が大事じゃない親なんていませんよ」
長澤「杉咲は真面目だねぇ。でも、そういうとこ嫌いじゃないよ」
●長澤、茶封筒にペンを走らせる。
●「パパとママへ」と可愛い字が封筒に書かれる。
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●場面変わり、タカチホ第参ベースパイロット食堂。
炊事班長「――しかし、よく食べるねぇ2人とも」
石川&古田「「うっす」」
●並んで座り、どんぶり飯を食らう石川と古田。
石川「なんか……あれだな」
古田「ん?」
石川「また、野球とかできるような日来んのかな?」
古田「俺らの高校時代は戦争で終わっちまったからな」
●空襲で壊れた甲子園球場のカット入る。
石川「あーあ……何だったんだろうな俺たちの野球人生」
古田「まったくだ。甲子園とか目指して練習してたのが懐かしい」
石川「でも、あれだな」
古田「ん?」
石川「意外と、今の生活嫌いじゃないんだ」
●石川の言葉に箸を止めて彼の顔を見る古田。
石川「勝つか負けるかの緊張感。マウンドに立ってる時を思い出す」
●ピッチャー時代のマウンドに立っている石川のカット入る。
●続いて戦闘中の石川のカット入る。
古田「確かに……皆が戦う後ろ姿を見るのは新鮮だな」
●モニターにアレックス機、石川機の背後が映るカット入る。
古田「俺はキャッチャーだったからな。守ってる時はいつも皆の顔を見てただろ」
●キャッチャー時代の古田の姿のカット。守っている古田から見ると、ピッチャーや野手の顔はみんな古田の方を向いている。
古田「今は一緒に前を向いて戦ってる。なんかさ、これもまぁ……良いよな」
●石川が箸を置いて言う。
石川「なんで野球じゃなくて『戦争』なんだろうな」
古田「生まれるタイミングを完全に間違えたな」
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●場面変わり、コロッサスの整備をしている木野本と浅沼に馨が声をかける。
馨「何か不具合ある?」
木野本「う~ん、俺らのテンション?」
浅沼「完全に落ちてるよね」
馨「おいおい、しっかりしてくれよ……」
木野本「ま、好きで
浅沼「木野本君は学徒兵への特別給付金目当てですもんね」
木野本「親は空襲で死んだし、弟に少しでも金を遺したいからな」
●木野本の7つ下(11歳)の弟のカット入る。
木野本「死んだら死んだで恩給出るんだろ? なら、死ぬまで戦うさ」
浅沼「僕も、入院中の母親に少しでもお金が振り込めればそれで」
●入院中の母親を見舞いに行っている浅沼のカット入る。
馨「2人ともそんなこと言うなよ。小隊長も言ってただろ、『絶対大丈夫』って」
木野本「ハハ、小隊長も班長も気休めがお上手で!」
浅沼「僕らが役に立たないのはだいたいわかってます。ただ……」
浅沼「生きた証は欲しいよねって、皆で言ってるんです」
●そう言う浅沼、馨から渡されていた形見セット(長澤&杉咲のものと同じ)を見つめる。
●髪の毛と爪を茶封筒に入れる長澤と杉咲のカット入る。
●同じく髪の毛と爪を茶封筒に入れる石川と古田のカット入る。
→パックに髪の毛を入れている手元のアップなどでも良いかもしれません。
馨「生きた証か……」
●回想カット、幼い頃の勝也/本を読んでいる勝也の姿。
●大学入学時の勝也の姿。
●勝也のことを話している韮沢の顔。
●勝也のことを話している時のアラタの顔。
●ふと何かに気づく馨。
馨「……ねえ、皆で生きて帰ろうよ」
木野本「ん?」
●馨の声を聞き、コロッサスの方を見ていた木野本は振り向いて馨を見る。
馨「生きた証なんて言わないでさ、生きて、家族の元に帰ろうよ」
浅沼「いや、だから班長……それはちょっと無理なんじゃ」
馨「大丈夫、絶対大丈夫。俺ちょっと皆に掛け合ってくる」
●走り出す馨をポカンとしながら見送る木野本。
●いきなり走っていった馨と木野本の様子に浅沼も不思議そうな顔をしている。
木野本「どうしちまったんだ? 班長」
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●場面変わり、タカチホ第参ベースパイロット隊長室。
●デスクに座り、いろいろな資料を見て検討している北野隊長。
北野「俺たちは俺たちのやり方で戦うしかないか」
●北野隊長、何かを決心したように呟く。
<電波塔破壊作戦まで後46日>
●作戦開始のカウントダウンの文字でEND
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