第29話 かあさんとみのりさんが顔を合わせる

 みのりが家に遊びにやってきた。


「みのりといいます。普段からお世話になっています」


「達の母親です。こちらこそお世話になっています」


 表の顔ではなく、裏の顔で接している。これを見るたびに、二重人格を疑わずにはいられなかった。


「達は究極の変わり者ですけど、よろしくお願いします」


「私は個性的な人が大好きです。普通と呼ばれる人たちといても、ちっとも楽しくありません」


「みのりさん、10年後、20年後もよろしくね」


「はい。私はいくつになっても、達についていきます」  


 醜い顔を化粧でごまかした魔性の女は、こちらの肩を何度も叩いてきた。


「達、将来のお嫁さんが見つかったみたいだね」


 みのりはお嫁さんという部分に敏感に反応する。


「はい。お嫁さんになります」

 

「なりたいです」ではなく、「なります」と言い切る女性。自己主張の強さは、相当なレベルに達している。


「達、お風呂に入ろうよ」


 かあさんのまえであっても、ラブラブアピールを仕掛けてくるなんて。肝が据わっているのは、素直に羨ましい。対人関係を避け続けてきた男とは、根本的な部分が異なっている。


「達、すごいじゃない。かあさんは0.0000001ミリだけ、あんたのことを見直したよ」


 0.0000001ミリでどれくらい変わるというのか。かあさんに質問しても、適当に流されるのがオチといえる。


「交際をスタートさせたことを、どうして黙っていたのよ」


 交際をスタートさせたと伝えても、軽くあしらわれていたはず。息子に対する評価は異常なまでに低い。

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