第41話 幸恵の心を確かめる(みのり編)

 幸恵が痴漢をされてから、一時間以上が経過していた。


「幸恵、メンタルはどうかな・・・・・・」


「無口君のおかげで、一時期の苦しみからは解放されたよ。痴漢男に抱きつかれたときは、本気でやばくて、発狂しそうになった」


 心穏やかな女性であっても、発狂しそうなほどに苦しむ。痴漢は女性の心に、∞のダメージを与えてくる。


「見た目は華奢なのに、ものすごいパワーを持っているんだね」


「私もこれぽっちも知らなかったよ。これまでは隠していたんだね」


 力をつけることによって、いじめを回避しようとしていたのかな。ターゲットになりやすいのは、弱者に限定される。

 

「こんなことをいうのはタブーだけど、恋のライバルにはならないでね」


 達に拒絶反応は示していなかったのに対し、他の男についてはすぐに痴漢と叫んでいた。彼女の心の中が透けて見えるかのようだ。


「みのりの恋を脅かす確率は、0.000001%もないと思うよ。みのりのようにいいたいことをいわれて、受け流すことはできなさそうだもの。いつかは堪忍袋の緒が切れるのは確実だよ」


 達は素直に生きるのをモットーとし、嘘をつくのを苦手としている。彼の最大の良さでもあり、究極の欠点にもなっている。


「今はダメだとしても、いつかは・・・・・・」


「私には高校時代から、交際している男がいるの。疎遠になってしまったけど、関係は続いているんだ」


 男と交際しているのに、他の男性のハグをプラスに感じられる。本人にはいえないけど、破局は限りなく近いのを感じさせる。


「今日は調子が良くないんだ。すぐに帰っていい?」


 痴漢をされた女性は、メンタルにすさまじい爆弾を抱えている。何かの拍子で爆発しなければいいけど、こればかりはどうなるのかわからない。 


「幸恵・・・・・・」


「無口君のおかげで、なんとかなりそうだよ。わずかな時間で、一生の恩人になっちゃったね」


 幸恵は助けを求めるように、達を抱きしめていた。20年近くの人生で、最大の苦しみを感じたと思われる。

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