名探偵の恋は真実から始まる。

ハチクマ

一章 泥の感情/図書室展示コーナー器物損壊事件

第1話 開幕/展示コーナーを荒らしたのは誰?

 教室の入り口のそばに立っていたふたりの先輩が、僕を見つけるなり顔を上げる。


 朝から一年生の教室のそばに立つ先輩達の姿は大いに目立っていて、彼らの周囲には二メートルほどの空白があった。

 一緒に登校していた泉さんは、彼らが僕に用事があるのがわかると、なんの反応も見せず自分だけは先に教室に入っていった。


 一方僕は何事かと立ち止まる。待っていたふたりの先輩のうちのひとり、高圧的な雰囲気をまとわせた間宮詩織まみや しおり先輩がつかつかと踵を鳴らして近づいてきた。上履きなのに、よくもまあそんなヒールみたいな音が鳴らせるものだ。


雛子ひなこ君。ちょっといいかしら」


 はあ、とかまあ、とか僕はなんとも言えない返事をする。別に構わないが、いったい何事かと思っている。


 そんな僕と視線が合ったもうひとりの先輩、こちらは大柄な体格に似合わず柔和な微笑みを浮かべた、君島大吾きみしま だいご先輩が頭をかきながら言う。


「いや、なんだ。聞きたいことがあってな。場所変えたほうがいいかな」


 廊下で先輩に詰められる僕の姿は、大いに目立っていた。見た目通りの小心者の僕はこくこく頷く。

 ふたりの先輩と連れ立って、廊下にある吹き抜けのスペースにやって来る。奥のガラス窓からは朝練に励む運動部達の姿が見えた。


「昨日の図書委員の当番、雛子君だったわよね」


 間宮先輩が詰問するように言う。目の前にふたりは、共に図書委員の先輩だ。

 実際その通りなのだが、なぜそんな厳しい口調なのだろうか。自分が何か過ちを犯したのかと不安になり、咄嗟に昨日の行動を振り返ってみる。だが、特に問題は思い当たらなかった。いたって平凡な一日だった。


「そうですけど……。正確には、僕と一ノ瀬先輩ですね」


 一ノ瀬ひとは先輩もまた図書委員の先輩だ。間宮先輩とは違い、小柄でおおらかな雰囲気を持つ癒し系の女子生徒だ。昨日は彼女と一緒に図書委員としての仕事をこなした。


「知ってるわ。ひとはにもあとで話を聞くつもり。それで、あなた達、昨日はきちんと仕事したんでしょうね?」

「えっと……どういう意味ですか?」


 責める口調に、僕はひたすら困惑してしまう。

 そんな間宮先輩をなだめるように、君島先輩が割って入った。


「実はな、今朝俺と間宮で図書室に行ったら、妙なことになっていてな」

「妙なこと?」

「展示コーナーが荒らされてたんだよ」

「はい?」


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