第11話これからどうなるの?

 数日間は放置した。


 公爵を、である。


 王国が大変だというのに、この辺境の地はまるで他国であるかのようにいつもどおりのときを刻んでいる。


 敵は、はたしてこの辺境の地まで攻めてくるかしら。


 だけど、そんなことをしても意味はないわよね。


 公爵はこの王国一の将軍だけれど、もろもろの事情で王都から追い払われてしまった。この国には、彼をよく思っていない人がほとんど。だから、彼がこの王国や王族の為に兵を集めて王都を奪還しに行くというのはかんがえにくい。


 敵は、それを知るでしょう。いいえ。もう知っているかもしれない。


 それでもやはり、攻めてくるかしら。もっとも、攻めてきても兵士がいない。領民を集っても戦力としては期待出来ない。


 もしも攻めてきたら、公爵は投降するのかしら。それとも、逃げるのかしら。


 なにせ公爵は変わり者。その上、何をかんがえているかわからない。


 う……ん。やはり、敵がここまでやってくるのはかんがえにくいわよね。


 敵にとって、ここは敵国。遠く辺境の地へある程度の数の将兵を攻めさせるのは、かなりのリスクを伴う。

 もしもわたしが敵の参謀だったら、ぜったいにそんなことはしない。


 もっとも、ここに王族の生き残りがいるというのなら話は別だけど。


 あるいは、念のため公爵を始末したいとか。


 それだったら、刺客を差し向けるわよね。


 わたしだったらそうするわ。


 数日間は、そんな空想や推測を繰り返してすごした。


 お父様とお兄様は、体力的にも精神的にもすっかりもとの調子に戻った。


 だから、以前同様馬や農作物を相手にすごしている。


 ブルーノは日々の勉強や稽古が終ったら、かならずやって来る。


 そして、わたしたちとすごした。


 そんなある日、朝から屋敷に行った。


 そろそろ公爵に会い、話をしたいと思ったから。


 朝のルーティーンをこなしてから、屋敷に出向いた。



 とりあえず、公爵との話をブルーノにきかせたくない。もちろん、公爵と話が出来なければなにもならないんだけど。


 今朝は、先にお兄様が屋敷に出かけた。


 お兄様は、戻ってきてから正式にブルーノの先生の一人になった。


 ああ見えて頭のいいお兄様は、戦術や戦略といった軍事だけでなく、政治や経済、物理や化学などオールマイティに出来る。


 ブルーノのたっての希望で、先生になったわけ。


 お給金もいただけるから、家計も助かる。


 いまごろは、ブルーノの部屋で勉強をしているはず。


 まぁ仲のいい二人だから、雑学的な話題で盛り上がっているかもしれないけれど。


 そんなことを想像しつつ、セプルベタ公爵家の執事長に公爵は自室にいるのか、あるいは執務室にいるのか尋ねてみた。


「庭園でバラの様子をご覧になっているよ」


 ゴマ塩頭のベテラン執事長は、そう言って小さく溜め息をついた。


「ご無事に戻られたのはよかったが、ずっと機嫌が悪い」

「詳しいことを話されたのかしら?」

「『負けて王都は占領されただろう』、とだけ。バレス王国は、いったいどうなってしまうのやら……」

「心配はいらないわ。公爵がいらっしゃるんだし」


 執事長にうなずいてみせ、礼を言ってから庭園に向かった。

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