第3話 “元男子校”なヤツのガン見

 今日は日差しが強い。

 この席じゃエアコンが日差しに負けてしまっていて、私は思わず襟刳りに指を引っ掛けてパタパタしてしまう。

 と、イケ麺くんの視線が胸元に……


、ガン見はやめようね」


 って注意すると

 慌てて目を伏せてやんの

 微妙にからかいたくなるオーラだよね。


 だからストローでクルクルかき回したくなって、アイスコーヒーを注文した。


「んで、どういう申し開きなわけ?」


「ここ、お白洲ですか?」


「そうだよ、キミは人様の貴重な時間をいただいているんだからね」


「わかりました。よろしくお願いします」


「よしよし、言ってみな」


「オレ、中学は野球で丸坊主で、高校は男子校だったんですよ。だから女の子と付き合うというか、出会いっていうのが全然無くて。だって、オレ高校の学祭で女装してウェイトレスやったんですよ」


 私は吹き出してしまった。で、笑いで肩を揺らせながら返してあげた

「それは……残念だったね。じゃあ今の…カノジョが初めて?」


「はい。 だからすごく嬉しいし、ドキドキする事もいっぱいあって……」


 私はカレの言葉を手で制する。

「ちょっといい? じゃ、なんで私らが必要なの? リア充をふつーに楽しめばいいじゃん」


「それなんですよ!関係が深くなって、あの、キスとか」


『声上ずってるし……』と私は心の中でウケまくっていた。

 人の恋バナってなかなかに面白いと知った。


「ガチガチだったんですけど……」


「まあ、歯がぶつからなきゃイイんじゃね」


「カノジョは……たぶん、いや、きっと経験者なんですよ!共学だったし……」


 <― 悪かったな!私は女子高だったけど、その頃からたよ ー>


「舌を、ですね。カノジョから入れてきたんですよ……」


「まあ、良かったじゃん」


「そうじゃなくって!!これって経験済みってことじゃないですか?」


「そんなのわかんないよ。お尻に“経験済み”ってハンコでも押してるわけじゃないんだから。だいたい男のくせにチマチマしたこと言うなよ!」


「そうは言いますけど……色々不安じゃないですか…… 段取りとか……それに……」


「それにって何よ!」


「カノジョが他のオトコと経験済なのが悔しい!!」


 私は頭をガリガリした。

 全く、男ってヤツは!!

 すぐこれだ!


「カノジョのすべてを欲しがるのは傲慢だよ。キミが使うお金について四の五の言いたくはないけれどさ!私らとのエッチなんかに使うんじゃなく、カノジョの為に使うのが男だろ!?」


 イケ麺くんはコーヒーカップを前に黙り込んでしまった。


 あ~あ、やっぱり今日、仕事出て来るんじゃなかった。


 イヤな予感したんだよなあ~


 私はかなり深いため息をついた。


「表の黒のワンボックスカー見えるだろ?! あれ事務所の車。行ってキャンセル料払ってきな。そしたらその金額に見合う以上の食事を奢ってやるよ。キミたちが行かない様なお店でね」



 ◇◇◇◇◇◇


 カレが支払いを済ませ戻って来たので、そこに座らせて改めて尋ねた。


「さっき悔しいって言ったが、それはカノジョの元カレに対する、キミの嫉妬じゃないのか?」


「多分……そうです」


「なら、その嫉妬に打ち勝つ方法を二つ思い付いた。一つはキミのその可愛い顔を活用して複数の女とイイ思いをする。もう一つは元カレの数倍カノジョを大切にする。 キミはどっちを選ぶ?」


「オレは! カノジョを数倍大切にしたい!」


「私の前で別にカッコつける事はない。そもそもキミがエッチ目的で呼んだ私なんだから」


「それでも……やっぱり、カノジョを数倍大切にしたい!」


 私はため息をついた。

 要らぬおせっかいをしてしまう事になるのか……


「私は冴子と言うんだ。キミ、名前は?」


「いつきです。樹木の樹のひと文字です」


「いい名前だね。では樹、食事の前に窓の向こうに見える公園へ行くぞ!」


 私は樹を公園に連れ出して、まずカレの手の爪を切らせた。


 思った通り大雑把だ。


 仕方がないので深爪にならない程度に私がキレイに切り直して、細かくをかけてあげた。

「カノジョを大切にするってことはね。こういう事をちゃんとすることなの」


 樹が不思議そうにしているので仕方なく説明してやる。


「キミはを触るんだよ。それともキミは目に入ったまつ毛をボロボロギザギザの爪で掻き取ったりするの?」


 樹は意味が分かったようだ。


 悟りの悪いヤツなら公園に捨て置くところだった。



「ところでキミはどんな財布を使っているの?」


 樹はヒップのポケットからマジックテープ仕様の財布を出した。


 なるほど…… ここからか……



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