第1話 かったるい

 久しぶりに事務所に顔を出した。


 今日はお茶汲みのボーヤも居なくて、マネージャーと二人、缶コーヒーを載せたテーブルをはさんで押し問答をしている。


「さっきの電話のお客。あれはきっとだな。みたくねえか?」

「パス!!!」

「ま、そう言わんと……って存在になれんだぜ!」

「NO!!」

「声からして若いし、元気だぜ、きっと」

「そーいうやつはるしクサいし汚いし、ロクなことないの。だいたい私は今日はゆる~く仕事したいんだ」

「頼むよ! ちょうどみんなでさ。色々と……」

「全然いないわけは無いでしょ?」

「分かった!取りあえず会うだけ会ってくれ。そこでキャンセルでいいから。時間稼ぎで。頼む!」

 狭いテーブルの前で頭下げるマネージャーのリーゼントの頭には、たぶん店の子のだれかの糸くずが付いている。

 それが何だか情けなくて私はつい仏心?が出てしまう。

「分かったよ。でもキャンセルはするよ」


 この仏心で私はいつも失敗するのだ……

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