方向性を見失った、らしい
出番の終わったインテリを労い、和気藹々と話す。
いい声だった。読み方も上手だった。感動した!なんてね。
心境はそんなことしてる場合じゃないんだけど。
ドッキドキ。
令嬢がやらかしてないか、不安で仕方がない。
ところで令嬢は?
その一言を言う心の準備を決めるのにしばらく時間が必要だった。
「あぁ、支配人ですか?
今は建設途中の宿舎の方へ視察へ行っていますよ。
…えぇ、もしかして…無許可でした?」
無許可も何も、今初めて聞いた単語よ、宿舎、それと総支配人。
…支配人!?なにそれ!誰それ!
「てっきり方針その3、ついでだから孤児も助けよう的な指示があったものかと…。」
知らねー!
おい、早く本題を話せよ。
でないと今日という日が終わらないだろ。
早く帰って眠りたくなって来たのに。
いいウイスキーを買って、しこたま飲んで、早く思い出にしたいのに。
「つまり…。」
うんうん、つまり?
この奇跡的にイケメンパラダイスとなったカフェの成功に手応えを掴んだ令嬢が、たった2ヶ月の利益をもって独立を果たしたと。
元のオーナーのマスターは王城やら騎士団から事情を聞いていたのでそういうもんかと、了承。
更には令嬢が自ら赴き、王城から借金をする事に成功。
あーあれね、噂になっている例の事業に必要なのね、と文官もろくに調べず大金を渡したと、はいはい。
土地屋を文官に紹介してもらい、彼らも例の件ねと格安で土地をご用意。
そんで、支配人となったとね、それは分かった、了解。
は?
動き早過ぎない?
そっかー、優秀ってのは怖いや。
俺なんて筋肉の中では多少マシくらいの知力だもの。
荷が重かったなぁ。
…もう帰ろうかな。
宿舎については聞きたくない。
この時点で俺の頭の中の枠から飛び出しているんだもの。
操縦不可能。
インポッシブル。
「それでですね、この優秀な男たちがいつまでも居てくれると、そんな甘い考えは起こさなかった様で…。」
令嬢は孤児に目をつけたと。
巷に溢れる孤児。
そりゃ可哀想さ。
俺だってなんとかしたいよ。
なんせ騎士団だからね、戦地にだって行くし、犯罪者は家族が居ようと牢屋へぶち込むのが仕事だ。
あいつらが孤児になった原因を作ったのは俺かもしれないんだから。
ありがたいよ?
ありがたいのだけれども、俺がフォローしなくても大丈夫なタイミングでやって欲しかったなぁ。
「宿舎まで案内を付けましょうか?
支配人からはもし副団長が来たらお話があるので引き留めておいて欲しいとこと付けされておりましたが、向こうで会えることでしょう。
君、副団長様の案内を頼む。
宿舎におられる支配人の所にだ、失礼のない様にね。」
「はい!」
元気で可愛らしい男の子が控室からトテトテと出て来た。
ははぁ、この綺麗な男の子も孤児って訳か。
俺が目配せすると、ペッとお辞儀をして歩き出した。
俺がこの子らを助けた正義の一味と勘違いしている様子で、どんなに今の生活が前よりも過ごしやすいかを道中話してくれる。
偶に挟まる観光案内も中々に興味深く、楽しい。
楽しいわ、すごいなこの子。
たった3ヶ月で…何をどうしたら孤児をここまで教育出来るのだ?
おっそろし。
「…おれ、あ、や、僕は、あいつらをまとめてたんですけど、行き詰まりを感じていたんです。
助けて頂いて、ありがとうございます。」
ふむ、そうか。
この子は孤児の中でも優秀な奴だったんだろうなぁ。
だから先んじて教育から実践に移ったって訳か。
ちょっと腑に落ちた。
この目以外は。
何その目。
むかーしむかしに滅ぼした邪教の狂信者とおんなじギャンギャンの瞳をしているんだけど。
しているんですけど!
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