婚約破棄には婚約を、らしい

「お呼びでしょうか副団長。」


お呼びでございますとも。


さてさて、この兵士くん。

何を隠そう帝国の皇子様なんだよね。


うちの王国と帝国は仲良しさんで、友好の証にあちらの皇子と、こちらの王子が交換留学しているのだ。


人質の交換ともいうが、要は大国同士が仲良くないと情勢が不安定になっちまうから、こう言う制度が取られているのだ。


「なぁお前、好きな人いる?」


「ハッ、ご存知かと思いますが、事情がありまして。


…なんすか副団長、その真面目な感じ。

質問の内容もきもちわりーっす。」


そんなこと言わないで聞いてくれよ。

兵士学校ノリで話そうとしたのは失敗だったけれど、こっちも大変なのよ。


皇子は事情を飲み込むと、まぁ、別に構わない、程度の返事をくれた。

どうせどこかで政治的な結婚をするのだ。

その相手として、令嬢は悪くない。

悪くないどころか政治的にはかなりの有望株だ。


王家筋、利発、美人、それを踏まえて国交の友好の象徴と扱い易い。


「なんならウチの兄貴でも良いくらいの条件じゃないっすかね。

まぁ、兄貴はもつ婚約者いるからアレっすけど。」


そうねぇ、そんな事したら別の事件が起きるだけっすねぇ。


ほんじゃオッケーって事ね。


じゃあ方針その2、皇子とばったり気があっちゃう作戦も練らなくては。


こっちはなぁ、令嬢の好みとかもあるしなぁ。

婚約破棄されたばかりだから好きな奴はいないと思うけれど。


有識者に聞いてみようかな。


「なによ、それで私に聞きに来たの?」


そうで御座いますお姫様。

この間助けてやったんだから少しくらい言う事を聞いてあそばせ。


「まぁ、私にも思うところがあるわ。

友達だし、あの子がこんな事で不幸になって良いはずがないもの。」


そうで御座いますねお姫様。

早くあの娘の理想のタイプを教えやがって下さいませませ。


「んー、職務に忠実だったからなぁ。

そんな個人的な好みなんてあるのかしら。


あの子の婚約者、真面目ぶっていたけれどクズだった訳でしょう?

ならその逆で、軽薄そうだけど根は真面目、みたいな方が懐に入りやすいのではなくて?

尚且つ、支えがいのありそうな殿方。

そんな人が良いのではないかしら。


そういえば…貴方とも話が上がった事があったわよね、すぐに婚約話が上がってなくなったけれど。」


成程で御座いますお姫様。

魔王領に居る際にお太りなられたので、運動した方が宜しくてよ。おほほ。


サンキューお転婆姫。


しっかしなぁ、軽薄そうで根は真面目で支えがいのありそうな役職についている奴?


そんなやつおらんおらん。


ロマンス小説ばっか読んでいるからそんな事言い出すんだよ。


皇子が好みじゃ無い可能性があるなぁ。


アイツは真面目だし、今後困難に直面する様な事はないだろうからなぁ。

アイツの兄貴が皇帝になったら向こうに帰って、悠々自適の侯爵生活、それが既定路線だし。


マジで羨ましい。


うわ、そうじゃん。

霊験あらたかな頭の親父さんと似た感じの道を辿る事になるじゃん。

んー、それは断られるかもしれないなぁ。


でも皇子は候補に入れておこう。

何人かの良い男を見繕っておけば、どれかにゃ引っかかるでしょう!


あとね、俺との話はどっかから流れたただの噂だから。


今更イジるなよ、当時団長やらおっさん方に死ぬほどイジられて辛い思いをしたんだから。

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