異世界転生で【魔剣】をもらうはずだったのに【負けん】の能力をもらった件
暁ノ鳥
1章:女神の勘違い
「――というわけで、あなたには【負けん】の能力を授けます!」
目の前で、やけにキラキラした女神様が、やけに自信満々にそう宣言する。
え、負けん?
俺、高橋レン、十七歳。
ついさっきまで、日本の片隅でごくごく普通の高校生をやっていたはずなんだ。
トラックに轢かれそうになった子猫を助けようとして……まあ、そこまでは覚えている。
気がつけば、雲の上みたいな、やたらとファンシーな神殿風の空間にいた。
んで、目の前には女神様。
うん、テンプレ通りだ。
異世界転生ってやつか。
ラノベとか漫画で死ぬほど読んだ展開に、まさか自分がリアルで巻き込まれるとは。
人生、何が起こるか分からんもんだ。
「ありがとうございます! あの、それで、俺が転生する世界って、確か……魔剣とかが存在するファンタジー世界なんですよね?」
思わず声が上擦っちまう。
だってしょうがないだろ!
魔剣だぞ、魔剣!
男の子なら一度は憧れる、中二病心をくすぐる最強アイテムじゃないか。
俺も例に漏れず、前世ではそういうファンタジー作品が大好きで、いつかカッコいい魔剣をブン回して冒険するのが夢だったんだ。
マジで。
あの、鞘から剣を引き抜く時のシャキン!って音とか、必殺技叫びながら敵をバッサバッサ斬り倒すのとか、想像するだけで胸が熱くなる。
女神ユフィーナと名乗った彼女は、手元の……なんだあれ、羊皮紙の束? みたいな書類をパラパラとめくりながら、うんうんと頷いている。
彼女のプラチナブロンドの髪が、動くたびにサラサラと揺れて、それ自体が発光しているみたいだ。
「はい、『まけん』です! えーっと、ちょっと待ってくださいね……」
彼女の細くて白い指が、ある一点でピタリと止まる。
その瞬間、なぜか女神様の顔がパッと輝いた。
いや、元から神々しいオーラで輝いてるけど、さらに輝度が増した感じ。
何かいいことでも見つけたみたいだ。
「ああ、ありましたありました! 間違いないわ、『まけん』って書いてありますね! やっぱり人気なのねー、まけん! 運営側もイチオシの特典なんですのよ!」
彼女が満面の笑みで、どこからともなく一枚の……札? を取り出す。
木製で、なんかこう、近所の神社とかでもらう交通安全のお守りみたいなやつだ。
そこには、達筆なんだかミミズがのたくったような字なんだか判別しづらい、独特な書体で文字が墨痕鮮やかに(?)書かれていた。
「え? これが魔剣?」
俺は目をパチクリさせる。
想像してたのとだいぶ違う。
もっとこう、禍々しいオーラを放ってたり、刀身がギラギラしてたりするもんじゃないのか、魔剣って。
「そうです! 『負けん』です! 絶対に負けません!」
女神様は胸を張る。
その豊満な胸がポヨンと揺れるが、今はそっちに気を取られている場合じゃない。
「あの……これ、剣じゃないですよね?」
女神様、若干目が泳いでないか?
さっきまでの自信満々な態度はどこへやら、なんだか早口になってるし、やけに「大丈夫」を連発する。
これって、アレか? ポンコツ女神ってやつか? もしかして俺、とんでもないハズレくじ引いちゃった感じ?
まあ、でも、異世界転生で何かしらのチート能力をもらえるっていうのはお約束だし、これにも何か隠されたとんでもないパワーがあるのかもしれない。
たぶん。きっと。そう信じたい。
じゃないとやってられない。
俺は一抹の、いや、かなりの不安を胸の奥に無理やり押し込め、差し出された【負けん】の札を、ありがたーく頂戴したのだった。
この選択が、俺の異世界ライフをどんな方向に導くのか、この時の俺はまだ、知る由もなかった。
ま、負けないんなら、どうにかなるだろ、たぶん……。
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