第2話

俺はとりあえず街をぶらついてみることにした。

中世ファンタジー的な街並み。石畳の道。屋台、鐘楼、馬車……と思いきや、馬がいない。


屋台をよく見ると、焼きそばパンみたいなものを焼いてるのは、無表情なサイボーグだった。

肩から「自動炙りユニット」を展開して、一定リズムで炙る。客の顔も、店員の顔も、笑顔一つない。


「焼き加減:最適化完了」

「対面接客モード:OFF。音声応答レベル1に固定」

「支払い完了。次の顧客処理を開始」


……おい、楽しくないぞ? 飯ってそういうもんじゃないだろ?


他の屋台も全部そうだった。焼き鳥屋、うどん屋、果ては甘味処までサイボーグ。

人間が料理してる姿はどこにもなかった。どうやら「効率の良さ」が重視されているらしい。


で、肝心の食べ物はというと……


「お、お兄さん、これはなんスか……?」

「本日の栄養ペーストです。糖質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルを完全に調整した設計です」

「いや、離乳食……?ていうか、ペーストって、味は?」

「満腹感重視の疑似風味加工です。味覚負荷を最小限に抑えてあります」


口に含むと、何とも言えない“病院のご飯を濃くしてぬるくした”ような味が広がった。


「うっ……ぶはっ……! なんだこれ! 食欲が死ぬ!」


サイボーグ屋台主は首をかしげた。


「異常反応を検出。摂食拒否の記録を保存します」


いや、違う。違うんだよ。

飯ってのはさ、「うめぇ〜!!!」って叫ぶもんなんだよ。舌が踊って、心が沸いて、気付いたら涙が出てるような……

そういうもんだろ……?


俺は食道の奥にたまる悲しみを飲み下して、フラフラと歩き出した。


しばらくして、飲食店街のはずれに差しかかった。

「酒場」のような建物を見つけたが、中は空っぽだった。棚に酒瓶らしきものが並んでいたが、どれもダミーの飾り。


「すみませーん、ここってバーじゃないんすか?」

「昔はそうでした。現在、アルコールの販売は非許可区域です」

「え、なんで?」

「アルコールは生産・摂取ともに“不要刺激物”として認定されています。廃止から322年経過しています」


「廃止ぃぃぃ!?」


ガチでショックだった。

じゃあこの世界には、居酒屋も、バーも、酔っぱらいも、酔ってゲロって人生語るおっさんも存在しないってことか?


「……これじゃ、人生がカラッカラじゃねぇか……」


俺はそのまま石畳の階段に腰を下ろして、空を見上げた。

空は青い。空気も澄んでいる。けど、全部が作り物みたいに整ってて、妙に寂しい。


考えた。ぐるぐる考えた。


この世界で、俺にできることはなんだろう。

俺だけが“過去の人間”っていう異物なら、その異物っぽさを逆に活かせないか?


未来人たちは、最適化された世界で感情を削ぎ落とされている。

味も感情も、全部「効率」で済ませてる。それって、人生なのか?


だったら俺は、こうしよう。


「俺、居酒屋つくるわ。異世界に。」

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