第三十七話 戦魔の森の魔物たち
「ちょう待てや! 魔物の群れが押し寄せてくるって、どういうこっちゃ!」
ラピスは慌てて立ち上がると、激しく動揺している男に向かって叫ぶ。
「どうもこうもありません……戦魔の森から魔物の大群がこちらに向かって来ていると、見回りの者が駆け込んできました」
相当に恐怖を感じているのだろう。
男の表情からは完全に血の気が引いていた。
「それで、その魔物の数はどれぐらいなのです?」
訊いたのは空心だ。
「……おそらく二百はいるとのことです」
「な、何やて!」
天幕内の緊張感が一気に高まった。
ラピスは目を剥きながら全身を震わせ、ユーシアも険しい表情をしている。
エリサたちも同様だ。
三人は「戦魔の森の魔物が二百……」と青白い顔で息を呑んでいた。
「二百の魔物の群れですか……それはとてつもない数ですね」
空心のつぶやきに、ラピスは「アホかッ!」とテーブルを平手で叩く。
「何をのんきなこと言うてんねん!
空心はエリサたちに顔を向ける。
エリサが小さく首を縦に振った。
「ラピスさんが言うように、問題なのは戦魔の森の魔物が二百体もここに押し寄せていることです。こんな事態は前代未聞です」
「そんなに戦魔の森に生息している魔物は危険なのですか?」
空心もこの異世界に来たばかりのとき、緑色の皮膚をした小鬼の魔物と対峙したことがある。
あとから聞いたところによると、正式な名前はゴブリンという大抵の森に生息している魔物だという。
とはいえ、ゴブリンは低級な魔物ではない。
知能こそ低いものの集団で行動し、狩りに対する行動力は熟練の冒険者でも手を焼くと聞いた。
「兄さん、まさか戦魔の森の魔物がゴブリンやトロールと思ってるんとちゃうやろな? もしそうやとしたら大間違いやで。戦魔の森の魔物のレベルは他の場所の魔物とは比べもんにならん」
続きの言葉はマリアが継いだ。
「
空心は唸った。
戦魔の森とやらに生息する魔物が、いかに危険な存在かは理解した。
それは他の人間たちの態度を見れば一目瞭然だ。
もしかすると魔族に匹敵する脅威なのかもしれない。
だとしたら、ラピスたちが動揺するのも無理はなかった。
そんな危険な魔物たちが押し寄せてくる以上、今は一刻も早くこの場所から立ち去る準備を整えなくてはならない……と考えているに違いない。
しかし、空心は別のことを考えた。
「なぜ、このタイミングで魔物たちが群れをなして森から離れたのでしょう?」
「どういうことです?」
訊き返したのはユーシアだった。
「みなさんの話を聞いていると、戦魔の森の魔物たちは普段は森から離れないことがわかりました。でないと、これほど驚く理由がないからです。しかし、その魔物たちがここに向かって押し寄せている。それも一気に群れをなして……」
空心は落ち着ついた口調で続ける。
「考えられる理由は二つ。一つは山火事などの災害で森から離れざるを負えない状況になった場合。ですが、その可能性は低いでしょう。もしも山火事ならば、魔物たちのことを伝えに来たそちらの男性がそう言ったはず。となると、残りは一つ」
空心の言葉に全員が固唾を呑む。
「戦魔の森の魔物たちは、自分たちよりも強大で凶悪な〝何か〟から逃げてきた」
「な、何かって何やの?」
空心は首を左右に振った。
「それは私にもわかりません。ただ、それ以外にわかったことがあります。このままだと私たちもそうですが、バーンズの街も危ないということです」
空心の指摘にエリサたちがハッとした。
「御使いさまのおっしゃる通りです。魔物の群れがこのオアシスに向かっているということは、オアシスの直線上にあるバーンズの街に被害が及ぶ可能性が高い」
そう、このガストラル大平原はバーンズの街のほぼ真西にあるのだ。
たとえ自分たちがオアシスから逃げて魔物の群れとの接触を回避したとしても、魔物の群れはそのままバーンズの街へと向かってしまうかもしれない。
ならば、自分が何をするべきかは決まっている。
空心は冷静な声で言った。
「ここで魔物たちを迎え撃ちましょう」
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