【連載】坊主転生 ~魔法とスキルがある異世界に転生した真言宗の坊主、仏さまからチートスキル【神々の加護】を頂戴して対魔法使いレジスタンスに加入したら、最強の大僧侶として伝説になった件~
ともボン
~第一章~
第一話 異世界に立った坊主
ふと気がつくと、
人の手が入っていない原生林なのは間違いない。
そして空心が佇んでいた場所は、森の中にぽっかりと開けた場所だった。
砂漠のオアシスとまではいかないが、近くに日光を反射している小池がある。
周囲の様子を視認した空心は、ここが異世界だということを実感した。
空気である。
軽く呼吸をしただけなのに、全身の細胞が喜びを上げるような新鮮な空気で肺全体が満たされていく。
「何という美味い空気なんだ」
思わずそんな言葉を発してしまった。
それほど現代日本とは空気が桁違いに美味い。
現代日本の空気が人工甘味料が入った清涼飲料水ならば、この異世界の空気は不純物が入っていない真水である。
しばらくその場で何度も深呼吸をしていた空心だったが、ようやく異世界の空気に慣れたときにふと我に返った。
両手で自分の身体をまさぐって服装を確認する。
空心が身にまとっているのは、袖と裾が長い僧侶服。
その上に肩から斜めに掛けるように袈裟をまとい、全体として厳かな雰囲気のある法衣姿をしていたのだ。
「やはり、あれは夢ではなかったんだな」
須弥山で大日如来に与えられた服装と同じである。
それに大日如来から与えられたものは法衣だけではなかった。
「まさか身長ほどの錫杖を手にするときが来るとは」
空心の横の地面には、百六十センチほどの錫杖が突き刺さっていた。
真言宗の僧侶ならばバトンほどの長さの錫杖を振る機会は多いが、映画やドラマなどに登場する大昔の僧侶が手にしているような長い錫杖は持たない。
空心は錫杖を手に取ると、小さく「シャリン」と音を鳴らす。
心地よい音色だった。
この音を聞けば魑魅魍魎や悪鬼羅刹も退散するだろう。
などと考えたとき、空心はハッとした。
(そういえば大日如来さまは他にも色々とおっしゃられていたな)
空心は錫杖を持ちながら小池に向かって歩を進めた。
小池の水質はかなりよい状態だった。
水面が日差しを反射してキラキラと輝やくほど澄んでいる。
そこで空心は水面に映った自分の顔を確認した。
「――――ッ!」
驚愕するとはこのことだった。
水面に映っているのは、間違いなく自分自身の顔である。
だが、ほうれい線が目立ってきた四十八歳の顔ではない。
艶やかな肌と生命力に満ち溢れていた、二十代半ば頃の自分の顔だったのだ。
顔を確認したことで、自分の肉体の変化にも気づくことができた。
身体の底から力がみなぎってくる。
胸筋、上腕二頭筋、僧帽筋、腹筋、大腿四頭筋などの人体の主要な筋肉が産声を上げている。
さあ、若返った俺たちを思う存分に使えと。
(この肉体ならば異世界でも修行と救済ができる)
そう思った直後だった。
「ギャギャギャ?」
どこからか耳に痛いくぐもった声が聞こえてきた。
空心はその声の発生源に顔を向ける。
「こ……子供?」
空心はあまりの驚きに目を丸くした。
視線の先にいたのは、茂みの中から現れた一人の子供だった。
いや、よく見ると子供ではない。
それどころか人間でもなかった。
百四十センチほどの小柄な体型。
頭は禿頭で、耳が鼻が長く尖っている。
身体は無駄な贅肉の無い筋肉質な体型で、肌色の人間とは違って薄い緑色の皮膚をしていた。
服は
右手に不釣り合いな大きさの棍棒を持っている。
「緑色の……小鬼?」
空心は瞬きをせずにつぶやく。
「ギョギョギョオオオオオオ――――ッ!」
小鬼は空心を見るなり叫声を発した。
बंबंबं
ビリビリと空気が震える。
まるで野獣の咆哮のようだ。
(あれが異世界の魔物なのか)
空心は咄嗟に身構えた。
棒術や槍術などは一度も習ったことはないが、本能が命じるままに錫杖の先端――金属の輪が取り付けられた
すると小鬼も身構えた。
空心が絶好の獲物なのか強敵なのか判断がつかなかったのだろう。
じりじりとすり足で近寄ってくる。
二人の距離はおよそ十メートル。
このままでは争いに発展しかねない。
(私は何と愚かなのだ)
我に返った空心は下唇を噛み締めた。
咄嗟に錫杖の先端を向けてしまったが、自分は腐っても真言宗の僧侶なのだ。
錫杖という法具を武器として扱おうとするなど言語道断。
「私の名前は長峰空心!」
空心は構えを解くと、仁王立ちになって叫んだ。
小鬼はビクッと全身を震わせ、歩みを止める。
「私の言葉がわかるのなら答えていただきたい! そなたは人に害をなす魔物なのか!」
やがて小鬼は酷薄した笑みを作った。
「ギュギョギョッ! ギョギョギョッギョギョ!」
どうやら小鬼は人間の言葉を話せないらしい。
しかし、小鬼の表情から何となく言葉の意味を察することができた。
――獲物だ! 弱い獲物だ!
間違いない。
小鬼は人に害をなす魔物である。
そう思った直後、空心の視界に信じられない光景が飛び込んできた。
「「「「「「ギョギョギョギョギョ」」」」」」
茂みの中から次々と小鬼が現れたのだ。
「――――なッ!」
空心の頬に一筋の汗が伝う。
現れた小鬼の数は六人。
当然ながら言葉は通じず、しかも全員から肌が粟立つような殺気を放っている。
(逃げられるか?)
空心はすぐに無理だと判断した。
相手はおそらく森を根城にしている。
ならば森の中の狩りは得手中の得手。
僧侶の自分など簡単に追い詰めて殺せるだろう。
だとしたら、逃げるという選択肢はない。
あるのは真言を唱えることのみ。
そうして空心は何百万回と唱えた真言を口にする。
「オン・アビラウンケン・ソワカ!」
大日如来の真言を唱えて心気を充実させると、空心は勢いよく石突きで地面を突いた。
周囲に「シャリンッ!」という音が鳴り響く。
その音色を聞いた瞬間、小鬼たちの表情が一変した。
額から脂汗を流し、全身をブルブルと震わせたのだ。
一方、空心はそんな小鬼たちに構わず口を動かしていく。
「私は僧侶。闘うことも逃げることもしない。するのは真言を唱えるのみ!」
空心は大きく吸気すると、今度は光明真言を高らかに口にする。
「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウンッ!」
するとどうだろう。
光明真言を唱え始めると、下腹の丹田部分に猛烈な熱さを感じた。
まるで高出力のモーターから生まれたような熱は、瞬く間に黄金色の光となって空心の全身を包んでいく。
それだけではない。
空心の口から発せられた光明真言が、黄金色の物理的な衝撃波となって小鬼に向かって飛んでいったのだ。
「「「「「「ギョエエエエエエエエッ!」」」」」」
小鬼たちは断末魔の叫びを上げた。
黄金色の衝撃波を食らい、小鬼たちは大量の泡を吹いてその場に倒れていく。
時間にして十秒ほどの出来事だった。
地面に倒れてピクリとも動かない小鬼たち。
そんな小鬼たちを見つめて呆然とする空心。
「こ、これが大日如来さまが言っておられた【神々の加護】の力なのか?」
空心は頭上に疑問符を浮かべた。
直後、脳内に「チーン」とおりんの音が響いた。
自分が現世で死ぬ間際に聞こえた音が。
そして空心はこの異世界に降り立ったキッカケを思い出す。
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【あとがき】
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