第61話
夏休みも終盤。
結局バイトが休めなくてどこにもいけないままだったので今日くらいはと、紅と二人で昼間に買い物をしているところなのだけど。
「あれー、柚葉じゃん」
聞き慣れない声が紅を呼び止めた。
「……真理子、何の用?」
「えー、別に話しかけただけじゃん。彼氏とデート?」
「そうだけど、なに?」
「冷たいなー。同級生なのに」
「今は学校も違うから」
明らかに不快感を露わにする紅の様子を見て、ピンときた。
多分目の前にいるこの女子は、紅の中学の同級生。
そしてソフト部だ。
「ふーん、そんなこというんだ。柚葉が高校でソフトしないってなったせいでさ、私らの推薦も全部なくなって苦労したってのに」
笑いながら。
しかし嫌味ったらしくその女子は言う。
そんな事情があったのかと、聞きながらあれこれ考えていると、隣で紅はあっさりと言った。
「私のバーターでしか進学できないなんてダサいわね」
その言葉にどこかスカっとした。
と、同時に言われた側は当然怒る。
「は? あんたが自分勝手なことしたせいでしょ? みんなで同じ高校でソフトするって言ってたくせに」
「そうしたくないって思わせたのは誰よ」
「なんですって?」
女子が紅に食いかかろうとした時。
俺は彼女たちの間に割って入った。
「おい、その辺にしとけよ」
「誰、あんた? 柚葉の彼氏か知らないけど私らの話に入ってこないで」
「終わった話をネチネチうるさいんだよ。デートの邪魔すんな」
普段女子に絶対使わないはずの強い口調で言い放つと。
イライラしながらそいつは「調子乗るなってのマジで」と。
言いながらどこかに消えていった。
「……やれやれ」
「ちょっと。無理して私を庇う必要ないから」
「別に無理してない。あの女がムカついただけだ」
「真理子が言ってたことは本当だし。私、そういうやつだから」
苛立ちを隠せない様子でそっぽを向く紅に何と声をかけたらいいかわからなかった。
ただ、その態度がどこか愛おしくて。
俺はそっと彼女の手を握った。
「……なによ。別に拗ねてないから」
「いや、拗ねてる。でも、俺はおまえの味方だからな」
「そんなことしてたら、敵が増えるかも」
「いい。お前の敵は俺の敵だよ」
「なにそれ。みんなの正義さんは辞めたの?」
「ああ。俺は大切な人を守れる人になりたい」
それに、紅が間違っていたら俺は叱ってやりたい。
逆に、俺が間違ったら彼女に正してほしい。
「俺、紅のことが好きだから」
「……そういうのずるい」
「こういう勢いがないと言えないんだよ」
「じゃあ」
紅が少し顔を赤くしながら。
「湊」
「え?」
「……こういうの、勢いがないと言えないから」
そう言って紅は早足で先に行ってしまった。
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