第9話 儚き森林と金色の炎
初心者ダンジョン取引所。飲食店スペースにて。
揚げ物の匂いや生徒がガヤガヤと話しているなか。
対面にいるカルミアがテーブルから身を乗り出しながら聞いてくる。
「本当にソフィアに四億ギメルも支払わせることになりましたの!?」
「さっきも言ったけど、支払うのはチーム全体でだけどね」
チームとはいえ四億ギメル……改めて考えるとヤバいな。日本円で四億円だもん……俺だったら絶望してる。
カルミアは信じられないのか、これで同じことを聞くのは三回目だ。
しかし、ようやく現実を認めたらしく彼女はうなだれる。
「はぁ~信じられませんわ。こんなことになるなんて……」
サンドイッチを頬張るシュロが口についたタレを拭き取りながら。口を挟む。
「二人だけ名を上げてずるい。次からは私も入れて」
「そういうことじゃありませんのよ!」
軽くシュロの頭をひっぱたく。
「はぁ~。もう過ぎたことなので気にするの止めますわ」
ダンジョンへ潜る前なのに疲れはてた顔をするカルミア。
「そういえば、さっき聖女様のこと呼び捨てにしていましたが仲がいいのですか?」
幸せそうに黙々とパフェを食べていたセリアがきょとんとした顔でカルミアへ言う。
「小さい頃から何度か交流がありましたの」
「なるほど、そういうことでしたか」
納得したセリアは再びパフェを食べ始める。
結構大きかったパフェが瞬く間に消えていく。
「迷惑かけて言いにくいのだが、この話しはここまでにして今から潜るダンジョンのことについて話し合わないか?」
「分かりましたわ。それで何から話しますの?」
「そうだな……まだお互い魔法やスキルについて詳しく話していなかったから、それのあとにダンジョンの話をしようか」
その結果、分かったかとは。
カルミアのレベルは5。
固有スキルは金色の炎。
自身が扱う炎が全て金色になる。
金色の炎は、普通の炎よりも温度が高く鎮火しにくい。
使える魔法はエンチャウントの魔法で剣と全身を炎で纏うことができる。
他にもファイアボールの魔法を使えるがコントロールが悪いので使い物にならない。
スキルは無し。
シュロのレベルも5。
固有スキルは鋼の意志
自身へのあらゆる攻撃を軽減する。
使える魔法はウィンド。風をおこし操る。
スキルはダメージカット。自信へのダメージを軽減する。
挑発。一時的に相手の標的を自身へ移す。
セリアのレベルは3。
固有スキルは奇跡の一撃。
物理攻撃が確定で会心になる。
使える魔法はヒール。傷を癒す。
フラッシュ。閃光を発して一時的に視界を奪う。
俺のレベルは3。
固有スキルは魔装重圧。
魔力を纏って相手を威圧する。
使える魔法は精神干渉。二メートル以内の相手に確率。触れていれば100%で相手にトラウマを思い出させる。
良いバランスのチームだ。
「シュロで押さえてその隙に俺とカルミアで攻撃。場合によってセリアにも前衛に参戦。こんな感じか?」
「私も前衛で戦うのですか? 前にも言ったのですが、前衛は得意ではないのですが……」
両手の人差し指をツンツンしながら上目遣いで呟く。
運動は苦手らしいが杖での攻撃は凄まじい。
撲殺の妖精の名はだてじゃない。
苦手でも、いざという時は頑張って貰わなくては。
「それは、かなりヤバい時だな。基本的には後ろで回復担当だから心配しなくて大丈夫だから」
そのひと言に「ほっ」と胸を撫で下ろすセリア。
「そういえば昨日カルミアとシュロは何の準備をしていたんだ?」
待ってましたと言わんばかりにカルミアは制服を強調する。
「この制服。見て分かりませんか?」
本来白色の制服が赤みがかっていた。それを指摘すると。
「私の金色の炎は特殊なので体に纏った瞬間に制服が燃え尽きてしまいますの。なので不死鳥の素材を編み込ませて炎耐性を上げましたわ。流石にすっぽんぽんにはなりたくありませんので」
「なるほど。シュロの方は?」
「特注の盾と剣を作って貰ってた」
壁に立て掛けてある大きめな盾に視線を移しながら言うシュロ。
「準備満タンでなにより。それで今日は三層~四層へ挑もうかと思っているのだけど、どうかな?」
俺の問いにシュロは堂々と胸を張り発言する。
「森林エリアは推奨レベル3。……私達なら余裕」
俺含めてみんな大丈夫みたいだ。
「それじゃあ、今回は余裕そうだから依頼も受けてみようか」
俺はボードに張ってあった一枚の依頼をみんなに見せる。
「昨日から気になっていたんだよね。マイルドドッグの肉の納品」
初心者ダンジョン関連の依頼は一種類しかなかった。それがこの依頼だ。
三層から出現するモンスター。マイルドドッグの肉一つにつき千ギメルとおいしい依頼だ。
しかし、俺の考えとは裏腹に依頼を覗き込んだ三人は顔をしかめた。
「それはちょっと……」
「マイルドドッグは止めよう」
セリアはともかくシュロまで断るとは思ってもみなかった。
俺は首をかしげながらカルミアの方を向くと簡単に説明してくれた。
「この犬は三体~五体で行動するのですが……標的を見つけると瞳がそれぞれ上下に向き、舌を出しながら……まるでラリった顔で追いかけてきますの。よだれも臭いし」
何それ。こっわ。どこがマイルドなんだよ……。
たしかにそんなのに複数で追いかけられたくないよな。トラウマものだ。
「そっかーそれならしょうがないね。依頼は諦めるか」
「ええ、その方がいいですわ」
「それじゃあ、話し合いはこのくらいで潜るか」
☆
三層森林の中を進んでいると、三メートルくらいの猪が木を薙ぎ倒しながらこちらに突進してきていた。
あれって森林ボアだよな。あらかじめ知っていたが実際に見るとヤバいな。こんなのがいるって……本当に初心者ダンジョンかよ!
「私が受け止める」
シュロが真正面から受け止めた。衝撃でボアの体が少し浮き上がり動きを止める。
その隙に俺とカルミアが左右から切り付けて一旦離脱。
カルミアは金色の炎を剣に纏わせ、切り付ける。
金色の炎が体へ引火して傷口を焼き続ける。
対して俺が切り付けた方は、フランベルジュのおかげで肉を深く抉り飛ばして、出血し続けている状態だ。
弱ったボアは立つのが精一杯に見える。
シュロがすかさず、盾でボアの側面を叩き付けて地面にねじ伏せる。
俺とカルミアは背中と腹をそれぞれ切り付けてボアは絶命。
ドロップ品の魔石を残して消える。
「勝てたけど魔石一つだけか……しょっぱいな」
「まぁ、仕方ありませんわ。このダンジョンではボスモンスター以外、角兎とマイルドドッグしか魔石以外のものをドロップしませんので」
「それにしても凄いですねシュロさん。アレを正面から受け止めるなんて……私なんか突っ立ってるだけでしたよ」
「ふふーん。凄いでしょ。もっと褒めて」
ドヤるシュロ
「セリアは一応ヒーラーなんだから。あまり気にするな」
「むむ、一応は余計です」
おっと、むくれてしまった。
みんなでセリアのご機嫌をとりつつ四層へ到着。
ここのモンスターも三層と変わらない。
ボア、ゴブリンを倒し。初見の敵、羽ばたき蛇という。五メートルくらいの空飛ぶ蛇を倒した。
しばらくして、ついに奴らと遭遇してしまった。
「なあ、あの木の影から顔を覗かしているのってなんだ?」
「どれですの? ……ひぃぃアレは! マサト、シュロ、セリア。すぐに逃げますわよ!」
カルミアの悲痛な叫びと共に俺達は走り出した。
しかし、遅かった。
後ろには、瞳がそれぞれ上下に向いて舌を出し、よだれを撒き散らしながら四頭の犬が追いかけてきた。
そう、マイルドドッグだ!
なぜあんなラリ顔の犬がマイルドドッグと名付けられたのか。
それは……ドロップするお肉がマイルドな口あたりで美味しいからだ。
ただそれだけ……。
こんな名前を付けた奴は馬鹿だ! 大馬鹿野郎だよ! マイルドどころかクレイジーだ!! クレイジードッグだよ!
「クソ! 腐っても犬か。足が速くて追い付かれる! 三人とも迎え撃つぞ! 俺が魔装重圧で威圧するからその後、各個撃破だ。いくぞ!」
俺は合図と共に振り返り魔装重圧を発動。
相手は怯み、硬直する。
動けなくなったマイルドドッグをカルミアが切り付けようと距離を詰めた瞬間。
「あっ」
小石につまずき、金色の炎を纏った剣が手からすっぽり抜ける。
剣は地面に落ちて茂みに引火。
金色の炎が森を焼き始めた。
それを見てマイルドドッグ達は逃げ出して行く
すぐに剣を拾い上げたカルミアは笑顔で。
「セーフ!」
「いや、アウトだよ!? ちょっ! ヤバい火が広がってるんだけど! 水魔法使える奴いないよな!? どうすれば……」
俺の焦る声にシュロが答える。
「私に任せて火消しは得意」
おお、さすがシュロ頼りにな……
「ウィンドウ」
風魔法を発動して炎がさらに燃え広がった。
絶句する俺とほぼ悲鳴に近い声で叫ぶセリア。
「何やってるんですか!? シュロさーん」
はっ! とした俺は即座に撤退するように大声を上げる。
「もう無理! みんな退避ーー!? 三層に戻れる入り口へ行くぞ!」
全力で走り出した。
三層に戻れる入り口に到着する頃には森林のほとんどが燃え上がっていた。
俺達はその様子を立ち尽くしながら眺める。
森林……その全てが燃え尽きるまで……。
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