第6話 弾けちゃいます!
翌朝。
今回はセリアと二人でダンジョンへ行く。
カルミアとシュロは準備することがあるらしく明日からの参加だ。
今日挑むダンジョンの名前は初心者ダンジョン。
一から二階層は平原エリア。三から四階層は森林エリア。五階層はボスモンスターのいるエリアで狭い石畳の部屋。
初心者ダンジョンはこの五階層からなっている。
セリアと行くのは一階層。推奨レベル1。ゴブリンと角兎しか出現しないみたいだ。
聞いたところ、一階層はヒーラ一人でも余裕らしいのでカルミアとシュロがいなくても大丈夫だろう。
さて、待ち合わせ場所へ行く前にやることがある。
入学初日。俺に絡んできた不良のことだ。
カルミア達に聞いた所、彼の名前はヘルガ・ヘルバーレイ。
クラスは1ー1組。
ヘルガのクラスメイトに席の場所を聞くと、窓際の一番後ろらしいので、そこへ俺が直々に描いた男同士のエッなイラストを入れよう。
知らないうちにあんな物が席に入ってたら、ヘルガくんは目ん玉飛び出して驚くことだろう。
そんなことを考えていると1ー1組へ着いた。クラスには誰一人いない。
お目当ての席にイラストを入れて……はい、終了。
やることやったし待ち合わせの所へ行こうか。
☆
待ち合わせ場所に着くと制服姿のセリアが手を振っている。
「おはようございます。マサトさん」
「おはようセリア。それにしても凄い数のパネルだな」
広い部屋には沢山のパネルが一定の距離づつ配置されていた。
「このパネルを使ってダンジョン近くの建物。取引所へ転移できるみたいですよ」
パネルにはダンジョン名がずらりと並んでいた。
その中の一つ。お目当ての初心者ダンジョンを見つけた。
「初心者ダンジョンを押せばいいんだよな?」
「そうです。さぁ、行っちゃいましょう!」
パネルをタップすると視界が光に包まれる。気がつくと取引所へ一瞬で転移していた。
取引所はゲームやアニメで見たことのあるギルドみたいな所だった。
一階は飲食したり学生からの依頼を受けたり、ダンジョンで入手した素材を換金する所だ。
二階~四階は宿になっている。
活気ある取引所。漂う食べ物の匂い。
今までに感じたこと無い雰囲気に圧倒されてると、セリアが俺の裾を引っ張る。
「マサトさんあそこで受付するみたいですよ」
「ああ、それじゃあ行こうか」
受付カウンターに着くと若い男の人が対応してくれた。
「今日はどのようなご用件で?」
「初心者ダンジョンへ行きたいのですが」
俺が答えると身分証の提示を求められたので
二人の身分証を渡した。
「はい。受付完了しました。では、あちらの扉からダンジョンへ行けますので、戻ってきたらこちらの受付に来てください」
受付が終わりさっそくダンジョンへ入ると……。
草原が広がっていた。風は吹き、周りは明るく太陽まで出ている。
「ここがダンジョンか……なんか外と変わらないな」
「そうですね。もっと洞窟の中みたいなのを想像していましたが……壁が見えませんね」
この階層の広さは直径、三キロメートルらしいが、平原が永遠に広がっているように見える。
平原を見渡していると視界の端で何かが跳ねた。
つられてそちらを見ると1メートル程の角の生えた兎がいた。
「でっか! あれが角兎か」
「そうですね。攻撃手段は跳ねて角を突き刺すだけらしいので、よそ見しなければ大丈夫そうですね」
そう言っている間に角兎はこちらに跳ねてくる。
「あぶな! 避けてなかったら腹に突き刺さってたぞ。怖いなー」
「ちょっとマサトさん。相手は最弱のモンスターですよ? 角兎に殺されたら笑われちゃいますからね? まぁ毎年、角兎に殺される方はいるみたいですが……」
あ、やっぱりいるんだ……。
よし! 気合いを入れろ俺!
角兎は再び俺の方を向き飛び跳ねる。ひらりと交わしフランベルジュで角兎の首を切つける。
切り口から大量の血が吹き出し角兎は絶命した。
「うわグッロ! 制服も返り血でびちゃびちゃなんだけど……最悪だ吐きそう」
角兎は中途半端に首が切れており断面が見えてグロい。今日は悪夢を見そうだ……
「マサトさん見てください。角兎のドロップ品ですよ!」
絶命して十秒くらいで角兎は粒子へと変わった。
残ったのは小さな魔石と葉っぱに包まれた百グラムくらいの兎肉だ。
「こういう風にドロップするのか……てかこの兎肉どうしよう。すぐ食べないと腐っちゃうよね?」
「兎肉はこの革袋にいれてください。これには冷却効果があるので長い間大丈夫ですよ」
中くらいの革袋を差し出しながら言うセリア。
「へぇ~そんなのあるんだ。知らなかったよ」
「マサトさん……入学初日の資料に書いてありましたよね? ダンジョンへ挑む際の必需品。もしかして読んでないのですか?」
「よ、読んでたよ。とばしとばしだけど……」
「もー! ちゃんと読まないとだめですよ。今日、帰ったらちゃんと読むんですよ? わかりましたか?」
「すみません。帰ったら読みます」
怒られた。
昨日、四時間かけてイラストを書いていたからあまり読めてなかったんだよね。反省しないと……
「それとマサトさん。制服。早く浄化の魔法使わないと血の汚れが染み付きますよ?」
「え? 俺、まだ魔法つかえないよ?」
「え?」
「え?」
「一般魔法は誰にでも使える筈なのですが……浄化」
セリアが俺に浄化と言うと服どころか体の汚れまで綺麗になった。
返り血は綺麗さっぱり消えていた。
「マジか! すっごい便利じゃん!」
それに驚いていると
「魔力があれば誰にでも使える魔法ですよ?マサトさんも使える筈です。今、私がやったようにやってみてください」
「浄化」と言うとセリアと同じ魔法を使うことができた。洗剤のイメージをしたからだろうか。ほんのりいい香りもする。
「マジ?……俺も使えたのか」
「何を言ってるのですか? 一般魔法は誰にでも使える魔法ですよ? 常識です。それを知らないなんて……はっ! もしかしてマサトさんって今まで監禁されていたとか? なんて可哀想に……」
なんか変な誤解してるぅ!
「いや、そんなんじゃないから! ただたんに世間知らずなだけだから! 変な誤解するのやめて!?」
しばらくしてセリアの誤解を解くことができた。
さて、気を取り直して角兎を狩るか!
探してすぐに角兎を発見。次に戦闘するのはセリアだ。
「なぁ、接近戦苦手なんだろ? 大丈夫なのか?」
「ふふーん! 角兎程度なら大丈夫ですよ。この杖で一撃です!」
胸を張るセリアに向けて角兎が跳ねて突撃する。それを危なげなく交わすと、角兎が着地した瞬間に杖を叩きつける。
そして……
バチューン!!
角兎は、頭も体も原型が無くなり……木っ端微塵に弾け飛んだ。
返り血で全身を真っ赤に染め、呆然とするセリアに俺は土下座していた。
なぜか分からない。だが、勝手に体が動いたのだ。
セリアは言う。
「角兎が弾け飛びました」
「見ておりました」
「なぜですか?」
「知りませぬ」
呆然としていたセリアは我に返った。
「そういえば、この杖には攻撃力を強化する効果がありましたね。私の固有スキルと合わさって弱いモンスターなら、一撃なのかも知れませんね。
うん! きっとそうです。私がムキムキなマッチョっなはずがありません。そうですよね? マサトさん」
「はい。マサトもそう思います」
なんて威力なんだ。杖で叩いただけで弾け飛んだぞ……
セリアの固有スキルってたしか確定会心だっけ? あの細い腕のセリアが攻撃力アップの杖と確定会心の組み合わせだけであんな威力出せるのか?
角兎は最弱モンスターで耐久力も最低レベル……レベル1のセリアでもできるものなのか? いや、というかできてたもんな!
うん、あれだ。深く考えるのやめよう。
俺は土下座をやめ、再びセリアと角兎を狩ろうとした時、後ろから変な奇声が聞こえてきた。
奇声の方を見ると身長一メートルくらいの緑の人型モンスター。二体のゴブリンがこっちへ走って来ていた。
俺とセリアは武器を構える。
「マサトさん。フラッシュの魔法で相手を怯ませるのでその間に倒しちゃってください」
「わかった。任せてくれ」
セリアの言葉に頷く。
ゴブリンとの距離残り五メートル。
セリアは瞬時に杖を掲げると
「フラッシュ!!」
杖の先端が強い光を放ちゴブリンの視界と……俺の視界を奪った。
「ぐあぁァァ! 目がっ!? 目がっ!?」
「ちょっ!? マサトさん! なんでゴブリンと同じ動きをしてるんですか!?」
「フラッシュの魔法で目が見えないんだよ!? それより早く視界が回復する前にゴブリン倒すんだ!」
「ま、まさか仲間にも効果があったなんて……ごめんなさいマサトさん。クッ、ゴブリンめ! 覚悟してください!」
セリアおまえ……。
ゴブリンが弾ける音が二回聞こえた。目が見えなくとも分かる。
今度はゴブリンが弾けたんだな……。
視力が回復。
再び角兎とゴブリンを狩って六時間が経過していた。
いつの間にか俺とセリアのレベルが3になっていた。
俺に関しては新しい魔法。精神干渉を覚えて歓喜する。
精神干渉の説明欄を見ると、どうやら半径二メートル以内の相手一人の精神に干渉してトラウマを思い出させる魔法みたいだ。相手に触れていると100%成功する。
……これ、モンスターに効くの? 対人戦用じゃね?
はぁ~がっかりだよ。でもしょうがない。次回に期待だな。
少し落ち込んでると
「マサトさん。結構時間経ちましたしダンジョンから出ませんか?」
「そうだな。もう疲れたから終わりにしようか」
こうして、無事に初めてのダンジョンから生還した。
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