【第2章:第5話】

≪精存在せいそんざい 顕けん≫


──空間が、満たされた。


精導学園 決闘演習場。

その中心に立つ一人の使い手を起点に、全てが変質していった。


空気は震え、重く、肌を刺すような圧が漂う。

視覚には映らないはずの精力が、まるで濃密な霧のように場を支配していた。


「……っ!」


生徒たちは息を呑む。

耳ではない、皮膚で感じる地鳴り。

胸の奥を直接叩くような脈動音。


その只中で、大精法使いは静かに立っていた。

衣の裾が逆巻く風に揺れ、彼の周囲の空間だけが別世界のように歪む。


──視えた。


ある生徒の目には、龍が成り上がる様が映った。

輪郭だけだった。だが、それだけで十分だった。


「……精法で、龍に……成った……?」


震えたのは声だけではない。

魂そのものが、畏怖に震えていた。


またある者は口元を押さえ、かすれる声で呟いた。

「ふ、ふつくしい……まるで、神話の……」


結晶化していく精力は、星々の光にも似た煌めきを帯び、輪郭が、鱗が、触角が、尾が……次々に顕現していく。


そのあまりの存在感に、言葉すら失いかける。

「……これが……“精龍”……」


その時、雷鳴。

いや、雷鳴ですらなかった。

天地の理が歪む音だった。


大精法使いは、己の姿を精龍と重ね合わせたまま、低く告げる。


「──これは、あくまで、あのお方の“御姿”を形作っているだけ。模倣に過ぎぬ」


「我が肉体を依代に、精龍様の御力をこの身に纏う精法。……だが、あの方の“御力”は、こんなものではない」


その言葉とともに、世界は一瞬、静寂に呑まれた。

音も、風も、何もかもが消えたかのような、虚無の間。


教頭は、その圧倒的な力の前に、立つことすら叶わなかった。


「……これが、精法の……極み……」


彼は膝をつき、地に手を突く。

この高みに至るまでの道程が、どれほどの血と汗と時間を必要とするか……その想像だけで、心が折れてしまう。


「……全く。全く、届く道筋が見えない……」


彼の言葉は、誰にも届かなかった。

目の前で、龍は咆哮した。

それは幻影。

だが、幻影でありながら、天地を震わせるだけの存在感があった。


──そこにいたのは、精法の果て。

神にも似た、精力の化身だった。


その精法の姿に精司は戦慄する。

まさにその存在感は──


「ギャルのパンティをくれーーーーっ!!」


(……つい、言ってしまった。まあお約束だよね)

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