賽の国 〜🎲🎲〜

sabamisony

第1投 賽の国

石畳に、月の影が落ちていた。


 この国に夜はない。

 焚火と酒、そしてサイコロの音が、闇を追い出していた。


 人々は今日も賭けをする。

 骨でできた二つのさいを振り、その合計を予想する。

 当たれば全てを得て、外れればすべてを失う──

 それが唯一の娯楽であり、祈りであり、生業だった。


 青銅の杯が鳴り、羊皮紙の帳が刻まれる。

 神殿の柱の影で、砂時計のように金貨が流れていく。


 ただし──「七」は、賭けてはならぬ。


 七が出たとき、すべての金は神官に回収され、

 “不浄の金”として神殿の山へと運ばれる。

 火と香で浄められ、帳に記録され、永遠に封じられる。

 それは、神の怒りとされていた。


 誰もそれを疑わなかった。

 七を恐れ、信じ、ただ従った。


 港のない石の町。

 月桂樹の葉が夜風に鳴り、

 遠くでは神殿の鐘が低く響く。


 酒場の奥。

 木製の卓を囲む影たちの手が、骨を握る。

 力を込める者もいれば、祈りを呟く者もいる。

 それは祈りというには粗野で、儀式というには乱れていた。


 骨が転がる。

 賽が鳴る。

 人が賭け、金が動く。


 それが、この国のすべてだった。


 そして──


 人々は、騙されていた。

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