【18】【19】

【18】


 そうして何曲か弾いていたら、いつの間にか侍女のミアが、わたくしの演奏を聴いているのに気が付いた。


「まあ、いつから聴いていたの」


「お嬢様の演奏は、素晴らしい音色ですからね。つい、こう仕事中ではありましたが、足が誘われるままにフラフラと」


 いや、仕事はしてちょうだい?


「お嬢様のピアノが好きなので、聴ける時に聴いておきたいと思いまして。ささ、お嬢様。私共を気にせず、続きを」


 ミアが目をキラキラさせながら、言ってくるので、これはもう、弾く以外の選択肢は無さそうね。


 わたくしもピアノを弾くのは好きだし、そこまで言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいのも確かだし。


「途中でつっかえて止まっても、笑わないでね」


 そうして、自分の好きな曲や、ミアのリクエストに応えた曲を弾いていった。






 気が付けば、あっという間に、夕暮れ近い時間になっていて。


 シアも仕事に戻りますと、わたくしへピアノを弾いてくれた事への礼を言うと、演奏ホールを後にした。


「うん。わたくしも、久し振りに1日のんびりと過ごせたわね」


 明日は卒業パーティだから、朝から支度もあるし、そろそろ部屋に戻りましょうか。

 グーッと伸びをして体を解してから、ピアノの蓋を戻し、わたくしもホールを後にした。




 ⇒【63】へ進む




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【19】


「……、…………あら………」

「お嬢様……!! 気が付かれましたか!!」


 そうしてわたくしが次に意識を戻した時には、もう翌々日の昼だった。

 侍女がわたくしが気が付いた事で、医者を呼んでもらうと、待機していたようで、すぐに部屋に来てくれた。


 体の状態を確認して貰うと、バラの毒の影響は残ってないとの事。

 どうやら体を麻痺させる神経系の毒ではあったけれど、命を失う程の強い物では無かったみたい。

 あの殿下の事だから、キツイ毒を用意するかと思ったので、それは少し意外だったわね。


 ………。………殿下、基本の勉強とかいつも逃げててろくに勉強してないままだったから、もしかして毒性の強さとか、そう言うの分からなかったのかしら……。


 殿下のオツムの出来については、ひとまず置いておくにしても。

 まさか昨夜意識を失ってる間に、全部終わっているとは思わなかったわ。

 婚約破棄イベントはどうなったのかしら……。




 婚約については、お父様が部屋に来てくれて説明をしてくださったんだけれども。


 お父様が証拠として集めていた、男爵令嬢が企んでいた多数の冤罪の証拠、昨夜の殺されかけた証拠。それに昨夜の暗殺者が、依頼人は殿下と男爵令嬢だと簡単に口を割ったのもあり、それらを諸々纏めて陛下に速攻提出されたらしい。


 お父様とマティは、かなり怒り心頭だったみたいで、陛下もタジタジだったみたいとはマティの弁。

 とは言え、婚約破棄のやらかしだけでなく、暗殺の件は流石に陛下も擁護は出来なかったようで。

 わたくしと殿下の婚約解消が、昨日のうちに行われたというから、さらに驚いた。


 お父様、仕事が早すぎませんこと?


 まさか寝ている間にそこまで話を進められているとは、流石に思わなかったわ。


 それだけかと思えば、ビックリな事に、殿下側の有責と言うのもあり、陛下は、殿下の王太子を取り消して、代わって第二王子であるシュテファン殿下が立太子すると決められたとの事。

 また、殿下は最低でも向こう五年は辺境で、一兵士として魔物と戦う事になるらしい。手柄を立てない限りは王都へ戻る事を許さないとか、あの軟弱ヘタレ殿下には、いい薬だろう。

 お父様が言うには、現辺境伯は、陛下の学生時代からの親友らしく、殿下の横暴我儘三昧は通じないだろうとの事。

 ……一応完全に放り出す訳でなく、親友の方のいる地に送る所は、陛下の親としての優しさなのかしら。




 それと男爵令嬢だけれども。


 冤罪を仕掛けたこと、上級貴族の暗殺を企んだ事、王配を狙った事などで、それはもう、彼女一人の罪では当然すまなくて。

 お家は断絶。親類縁者は、全て平民落ち。王都から追放まではならなかったけど、かなり寂れた地域への追放になったみたい。 

 本来なら処刑になるはずなんだけど、陛下はこの連座があまり好きではないらしく、ベルツ元男爵令嬢以外は、平民落ちとして、処置されたらしい。

 貴族だった人からしたら、寂れた場所に追放も、相当きついと思うけどね……。



 ベルツ元男爵令嬢だけは、平民落ちに加えて、片脚の腱を切らされた上で、戒律の厳しい極寒の北の地に行かされたらしいわ。



 下手に国外に追放して、他国に迷惑掛ける可能性がある事を考えると、それなら簡単に逃げれない様にと、片脚だけ腱を切って、労働活動をずっとさせる事になったそう。

 確かに片足が上手く歩けないなら、脱走してもすぐに遠くには行けないし、見付かっても逃げ切るのは難しいものね。

 両足だと、今度は労働させるのにも難しくなるし。

 それと怪我をしても病気に罹っても、手当もされないらしい。


 ……中々エグいと言うか、容赦が無いと言うか。

 地味にキツい罰だわ。

 頑張って生き抜いてねとしか、わたくしからは言えないけれども。






「義姉さまを殺そうとしたんだから、これくらいで済んだのは可愛い方じゃない」


 数日後、ガゼボで一緒にお茶をしながら、二人の処罰についての報告を聞いていたマティはマティで、容赦の無い言葉を呟いた。


「貴方も大概容赦ないわねえ」

「じゃあ聞くけどさ」


 口に残っていたクッキーを紅茶で飲み干すと、マティは言葉を続けた。


「逆に僕が同じ目に合ったとしたら、義姉さまはどうする?」

「……」


 マティの言葉に、紅茶を飲もうとしていた手がピタリと止まる。


 確かにマティが、わたくしの様に冤罪や婚約破棄を、衆人環視の中でされる可能性があったとしたら……。


 そうね、同じ様に容赦ない報復をするでしょうね。

 お父様も同じなのも想像が付くわ。

 わたくしの反応に満足したのか、にこーっと目尻を下げる迄の笑みを浮かべる。


「ね? だから僕のした事なんて、大袈裟でも何でも無いんだよ」


 うんうんと頷き、マティは再び皿の上のクッキーを手に取り口にした。




 ⇒【34】へ進む




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