第30話 闇より現る喰らう者、“ノヴァリア”の顕現
その日、世界は再び震えた。
──〈再構成〉された因果は、確かに均衡を取り戻した。
だが、それはあくまで“表層”の話であり、“深層”──
世界の根底にある法則の奥底には、なお解放されぬ存在が潜んでいた。
* * *
王都〈フィルメリア〉、中央塔・戦術観測室。
魔術装置が唸りを上げ、魔力結晶が光を乱反射させながら高速で回転している。
「……魔網の乱れ、再び確認」
「これは、もはや地殻的な魔力変動じゃない……次元そのものが……っ」
観測士たちの声は混乱に満ちていた。
その中央に設けられた魔術スクリーンには、黒い渦巻く“裂け目”がはっきりと映し出されていた。
大地が捩れ、空が引き裂かれ、そこに生じた空洞から“それ”は現れた。
──ノヴァリア。
「なに……あれは……!」
空に浮かぶ巨大な“影”。
巨大な黒の渦を中心に、触手のようなものが幾本も伸び、どこにも繋がっていない空間を這うように動いている。
その中心に浮かぶ、ひとつの“目”。
まるで宇宙を映すかのように深く、底知れぬ知性と悪意を含んだ漆黒の瞳。
それが一度だけ、王都の方向を見据えた。
瞬間、観測室の魔術結晶が軒並み爆砕し、室内の気圧が一気に落ちる。
「やばい……これは、“存在の視認”そのものが因果に干渉してきてる……!」
魔術士長が叫ぶ。
「このままだと、こっちの存在そのものが……喰われる!」
その言葉通り、“ノヴァリア”の眼差しは、ただ見るだけで因果を破壊する。
それは世界の理から逸脱した“喰らう者”──すなわち、“記録を破壊する存在”。
生きているもの、物質、記憶、概念、歴史──そのすべてを“消去”し、“再利用不能”な無に還す。
* * *
──場面は変わり、再建されたセフィロスの高台。
「……来たな」
リュークは空に広がる異常な雲の動きを見て、確信する。
ミリア、リオ、セファ、アルノ、そして新たに合流した精霊術士ルディアも並ぶ。
全員がその“異常”を肌で感じていた。
「この圧……これまでの魔物や敵とは“質”が違う。空間ごと、精神が歪むような……」
セファの声はかすかに震えていた。
「世界が敵を認識していない……まるで、これは“存在してはならないもの”を無理やり引きずり出した感じ」
ルディアが言うと、ミリアが顔を上げた。
「でも、世界が見ないふりをしているなら……私たちが、見つめるしかないよね」
ミリアの瞳には、強い光が宿っていた。
リュークも頷いた。
「そうだ。俺たちは“例外”であり、“選んだ者”だ。
この世界が選べない未来を──俺たちが決める。戦うんだ、この世界の未来のために」
* * *
その夜。リュークはひとり塔の下層へと向かっていた。
そこには、〈再構成〉時に現れた“記録の核”──
すなわち、因果の管理装置であり、転生者に与えられる“特権”の中枢がある。
(……これを使えば、確かに力を得られる。だが同時に、自分という存在が……)
記録の核に触れれば、リュークはさらなる力を得る。
だがその代償に、己の“オリジナル”としての記録──元の世界の記憶と、根源たる存在情報の一部を失う可能性がある。
「……迷っているのか?」
背後から現れたのは、リオだった。
「いや、決まってる。……ただ、覚悟を強めてた」
リュークは静かに手を伸ばした。
記録の核が、まばゆく輝いた。
それはただの力ではない。
“世界に記録される存在”としての再定義──
過去も未来も、この瞬間にすべてが塗り替えられる。
──リューク・クロスフィールド。
汝、新たなる因果の核心として、この世界に名を刻むか?
「刻むとも。この世界に生き、この世界を守る者としてな──!」
一瞬のうちに、膨大な魔力と知識が脳に流れ込んだ。
天の魔術理論、古代語の解読、未解析の精霊術理、戦術魔導思考、転写情報、未来予測構文──
あらゆる“叡智”が彼の中で融合し、形を成す。
同時に、彼の身体には新たな紋章が刻まれた。
──【記録の契約者】。
それは、世界の記録に干渉する者。すなわち、“神にも等しい選定者”の証。
* * *
夜が明ける。
リュークたちは、黒き渦の前線へと向かう。
その地には、すでに多くの兵が集結していた。だが皆、恐れに顔を青ざめさせ、動けずにいた。
「……ここから先は、俺たちが行く」
リュークは歩み出す。
その背に宿る魔力は、ただの戦士ではない。
世界の法則を改変しうる、まさに“神代”の力だった。
「“ノヴァリア”……お前が喰おうとするこの世界は、俺たちが守る。
例え記録が消えようと──想いまでは、消させない!」
そして彼の背後に、ミリア、リオ、セファ、ルディア、アルノたちが並ぶ。
仲間たちの魔力が共鳴し、空に巨大な魔法陣が描かれた。
それは新たなる連携術式。再構成された世界にのみ許された、“複合魔導陣・グランドフォージ”。
魔力が天を裂き、ノヴァリアの触手が地に降りようとした瞬間──
リュークは、全魔力を拳に集中させ、叫んだ。
「この世界に手を出すな──“神撃・終記の一閃”!」
天地を断つ一撃が、黒き触手を切り裂いた。
そして、戦いが始まった。
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