第6話 「約束と遺産」


2006年――

バークシャー・ハサウェイの株価は1株10万ドルを超え、ウォーレン・バフェットは“世界一の投資家”として絶対的な地位にあった。


だがこの年、彼は突如として声明を出す。


「私は財産の99%を寄付します」


誰もが耳を疑った。

築き上げた帝国を、慈善に捧げるというのか。


彼は穏やかに言った。


「お金は、社会の中で再び循環させてこそ意味がある。

墓に金を持っていっても仕方がないでしょう?」



ビル・ゲイツとの誓い


彼が寄付先として選んだのは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団。

技術と資本の力で、世界の教育と医療、そして命を救おうとするその活動に共鳴したのだった。


バフェットとゲイツは、歳の差を越えて真の友情で結ばれていた。

月に一度、バークシャーの事務所で“人生と人類の未来”について語り合う。


「君は技術で世界を変えようとしている。

私は資本で、その道を拓こう」


それは、現代資本主義の最も美しい結晶だった。



リーマン・ショックと静かなる出動


2008年。リーマン・ブラザーズの破綻が世界市場を直撃した。

株価は暴落し、恐怖と混乱が広がる中――


ウォーレン・バフェットは、誰よりも早く“買い”に動いた。


・ゴールドマン・サックスへの50億ドルの出資

・GEへの30億ドルの融資

・バンク・オブ・アメリカの救済的投資


その行動は、まさに“信頼の貸与”だった。


「こんな時こそ、合理的に考え、未来を信じるべきです」


市場がパニックに陥る中で、彼の言葉と行動は灯台のように人々を導いた。



継承と後継者


バフェットは、バークシャーの未来を考えていた。

自分亡き後、誰が哲学を受け継ぐのか。


何度も何度も候補者を検討し、ついにグレッグ・アベルを筆頭とした経営陣に道を託す。


だが、彼は言う。


「私は“誰かに似ている”人物を探してはいない。

私の哲学を、自分のやり方で“生かせる”人を選んだだけです」


後継とは、“模倣”ではなく“継承”。

哲学と人格こそが、バフェットの最大の遺産だった。



最期の手紙


高齢となったバフェットは、ある年の株主総会でこう語った。


「バークシャーの株を持ち続けなさい、とは言いません。

だが、信頼・長期・誠実という原則は、どんな時代でも色褪せないはずです」


そしてこう締めくくった。


「複利とは、金利ではなく、“人間関係の蓄積”のことです」



永遠の約束


彼が遺したのは、株式でも、財団でもない。

それは、資本主義という仕組みを“信頼の形”に変えた哲学だった。


・焦らず

・騒がず

・長く信じる


その生き方こそが、何よりも価値ある“投資”だった。

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