第36話 先攻 〈早瀬川サイド〉

僕の仕事は残り1分。そう言われていた。誰にって?そんなこと頼む人1人しかいない。大黒 賢弥だ。



おそらく光(宮東 光)が前日に言っていた策を実行したのだろう。

開始30分で7人も見つけることができていた。


「さすが光だね」


僕は独り言を呟く。

しかし、残り10分になっても新しい発見情報はなかった。

残り3人か。

なかなか見つからないものなんだなぁ。


そう思いながらも、僕はある場所に向かっていた。それは第一試験場だ。

僕は第一試験場の扉を開ける。

そこには隠れる仲間を待つチーム1,2の姿。

残り時間1分。僕はある人物を目掛けて歩き出す。


人混みを掻き分け、その人物を見つける。

そして、僕はその人の全体を写真で収めると、アプリ内に転送する。

残り時間はあと3秒程だった。


そして、終わりのブザーが鳴る。


『先攻チーム5,6見つけた人数8人』


「あらら、残り2人は見つからなかったみたいだ」


僕は残念な表情を浮かべる。

しかし、目の前の人物はすごく動揺していた。


「おい、どうしてだ?どうして分かったんだ!」


「えっーと、僕の口からはうまく説明できないんですよね。詳しくは彼から聞いてください」


僕がそう言うと、第一試験場の開かれた扉からある人物が入ってくる。

どうやら、彼は先攻後攻の入れ替わりのタイミングの休憩時間ということで一時的に拘束が解かれたようだった。

彼は僕の目の前で動揺している先輩を一目見ると、悪人のような顔で笑いながら言った。


「お疲れ様です。新田先輩。いや、間違えました。千藤せんどう先輩」


そう。僕の目の前で動揺していた先輩。その正体はチーム3の新田 留威と偽名を名乗り、賢弥に接触したチーム2の千藤 留威先輩。


「お前はいつから気づいてたんだ!大黒!」


千藤先輩が叫び散らかす。しかし、賢弥はそれを一蹴した。


「最初に話した時からですよ」


「いや、俺は怪しい動きなんてしてなかったはずだろ?なぁ、おい」


賢弥は畳み掛けていた。


「あなたはチーム3の人間と名乗りながらも、敵対してるはずのチーム1の情報を知りすぎていた。怪しいと思ったのはそこからです。そこでチーム3としてのあなたの周りの交友関係を調べていました。そしたら、チーム3に新田 留威という生徒はいないと分かりました。俺はなら誰なんだって考えて、ある人物のところに行ったんです」


「悠尚か」 (※悠尚=荒木田 悠尚)


千藤先輩は何かを悟ったみたいだった。


「正解です」


「でも、お前からの頼みで悠尚が簡単に口を割るとは思えない」


「確かに俺からの頼みならそうなりますね。だから、考えたんです」



〈主人公大黒 賢弥視点に戻る〉


俺は千藤(この時は新田という偽名を使っていた)と話した時は昼だった。しかし、その話を早瀬川や宮東にしたのは次の日の夜。おかしいと思わなかったか?

俺は千藤と話した後、次の日の夜まで何をしてたんだって。

一つはさっき言ったように新田という生徒がチーム3にいるのかという情報集め。そして、もう一つは荒木田から、新田の本当の情報を手に入れることだ。


俺はチーム8に知り合いなんていなかったが、第三プログラムの説明の時、扱いやすそうな奴がいたことを思い出した。内容をかくれんぼと聞いて笑っていた若林だ。

あの時は同じくチーム8の橋森という女子生徒に怖気付いていたが、俺はそこに扱いやすさを感じた。


俺は娯楽エリアを歩き回り(いかにもいそうだろ?)、若林を見つけると、話しかけた。どうやら、同じチームの仲間数人と遊んでる様子だった。


「チーム8の若林だよな?ちょっと話いいか?」


「誰だお前?」


「チーム5の大黒 賢弥だ。荒木田の従兄弟に伝言を頼まれたんだ」


「荒木田さんに従兄弟だぁ?知らねぇよ。帰れ」


「いいのかよ。大事な内容だと言ってたぞ。それもお前宛てじゃなくて、荒木田宛てだ」


俺がそう言うと、若林は少し考えて、一緒に遊んでいた連中に「ちょっと待っとけよ」と言うと、俺と2人になって話を聞こうとした。


「どうして、その荒木田さんの従兄弟はお前なんかに伝言を頼むんだよ」


「俺、というより若林。お前に伝言を頼みたいらしい。俺は単なる仲介役だ」


「じゃあ、どうして、その人はお前を経由して俺に頼む必要があるんだ?」


「別に仲介役は誰でもいいらしい。大事なのは若林。お前の口から荒木田に伝えることだと言っていた」


すると、若林は気分を良くしたようだった。


「えへへ、それは普通に嬉しいや」


扱いやすっ!と思ったが、言うのを我慢する。


「で?その荒木田さんの従兄弟さんがおっしゃった俺から荒木田さんに伝えて欲しいことは何だって?」


「それは、『俺の部屋に明日会いに来い』だ」


「なるほど!俺、荒木田さんに言ってくるー」


即決して即行動して、若林は持ち前の扱いやすさを発揮して荒木田に今の言葉を伝えに行った。おそらく、若林はこう言ってることだろう。『荒木田さんの従兄弟さんから俺の部屋に明日来てくれと伝言を頼まれました』と。

こうして、荒木田が思い通りに動けば、次の日に俺が荒木田を尾行して情報が割れると考えたのだ。


次の日、荒木田は部屋から出てくると、少し歩き、誰もいないところで話し始めた。


「大黒、いるんだろ?」


俺はゆっくりと姿を現す。


「バレたか」


「当たり前だ。若林を詰めたら馬鹿みたいにお前に言われたことを吐きやがった」


詰めたら、か。まぁ荒木田が若林の首根っこ掴んで「本当のこと言えよ。本当に俺の従兄弟の口からそんなこと聞いたのか?」と脅している姿は容易に想像できるな。


「で?俺を誘き寄せて暴力か?」


俺がそう聞くと、荒木田はハハハハと高らかに笑った。


「確かにそれもいいな。でも今回ばかりは違うな。俺の従兄弟、千藤 留威の情報知りたいんだろ?協力してやるよ」


荒木田の従兄弟の情報を教えてやる、か。何から何までお見通しってわけだ。


「どういう風の吹き回しだよ」


「気分だ。それと前にお前がその小さい脳みそで俺を倒したご褒美だな。留威のやつ最近調子乗ってるからな。ここらでお前がめといてくれや。お前みたいなカスにやられたらアイツも大人しくなるかもな」


それはお前もだろと言いたかったが、そんなことを言うと、本当に殴られそうだったので、何も言わずにありがたく情報をもらった。



「ってわけだ。納得したか?千藤先輩」


「ああ」


千藤は諦めたように肩を落とした。


「俺たちの隠れる生徒が第一試験場を出る時、その中に俺がいなかったことをお前が確認した時点で俺がこの隠れないチーム1,2の生徒の中に混ざって隠れているって分かったんだな」


「その通りです。そして、そのことを早瀬川に伝えておくことであなたの発見に繋がりました」


「事前に、か。確認するまでもなく最初から俺がこの中に隠れること分かってたみたいだな」


「はい、千藤先輩みたいな卑怯な人の考えることは分かりますから。それにまぁ偽名を使ってまで俺を騙そうとした動機もおそらく、俺を騙して勝つことで俺が倒した荒木田よりも優位に立つこととかですかね」


「すごいな。何から何までお見通しかよ。まるで悠尚だな。そうだよ、俺はお前に勝って悠尚よりも優れてるって証明したかったんだよ。その理由もくだらない自己満足のためだ」


「その俺が荒木田に似てるってやつ、やめてください」


「いいだろ?別に。本当のことなんだし、な。」


千藤は開き直ったように高らかに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る