第20話 チーム5と作戦会議
俺は矢沢の話を聞いて、荒木田という男を知った。
自身が暴力を振るいたいという快楽のために自分のチームメイトを使って罠を張る狡猾さ。ある種目的のためならば手段を選ばない。そういう印象を受けた。
「どうだ?俺の情けない話は次のプログラムに役立ちそうか?」
矢沢は少し笑いながら言った。情けない話と自分で言っていることから恥ずかしさを感じているのかもしれない。
「あぁ、ありがとう。必ず役立ててみせるよ」
「そうか、任せたぞ」
そう言うと、矢沢は包帯でグルグル巻きの拳をこちらに伸ばしてきた。俺はそれに応えるように拳を合わせた。
その日の夜、早瀬川からチーム5のグループチャットに連絡があった。
『あの場では明日って言ったけど、明後日の午前9時に教室に集合してプログラムの作戦を立てよう』
チーム7に聞かれることを警戒する意図もあるのか早瀬川は作戦会議の日程を一日ずらしてきた。
次の日の朝、目を覚ますと、俺は教室エリアに足を運んだ。他のチームの偵察だ。一年生や三年生は教室から声が聞こえるチームもあったが、二年生はまだどこも話し合いを行なっていない様子だった。それを確認すると、一度、部屋に戻った。昼飯を食べた後、もう一度教室エリアに行ってみたが、やはり二年生で作戦会議を行なっているチームはなかった。俺が帰ろうとした時、ある人物を発見した。俺は声をかけることにした。
「何をしてんだ?島河」
「なんだ大黒か、なんかさ他のチームが作戦会議してないかなーって思って、もしかして大黒も?」
俺が声をかけた人物は島河 智佐紀(しまかわ ちさき)。チーム5の1人で、柚子崎とは特に仲が良かった印象だ。柚子崎の脱落の時は誰よりも泣いていた。いつもはポニーテールだが、今日は髪をおろしていた。
「ああ、一緒だな」
「そうだねー」
自分から聞いてきたくせに適当に流された。俺は話を振ってみることにした。
「チーム7との話どう思った?」
「あー、大黒が勝手にやったみたいな?別にいいんじゃない?峰松さん賢いし」
「そうか」
話が終わった。気まずい。何か別の話をしようと考えていると、島河の方から話しかけてきた。
「ねぇ、あんたさ詩乃って言っても分からないか、柚子崎とどういう関係だったの?」
「どうしてそんな話になるんだ?」
「詩乃が脱落した時に『柚子崎!』って叫んでたし、その後も思い詰めてた感じだったし、もしかしたら付き合ってたのかなって」
「付き合ってはなかった。そう見えたのか?」
「うーん、それっぽかったかな、詩乃も最後大黒に話しかけてたし。
あの子、恋愛とかそう言う話しなかったしさ」
また沈黙が始まる。島河は端末で他の女子生徒と連絡を取っている様子だった。
「他のチーム何もしてないみたいだし、私行くね」
「じゃあな」
どこかぎこちない会話だったが、島河と分かれた俺はその後教室で10分ほど時間を潰し、誰も来ないことを確認すると、部屋に帰った。
そして、次の日午前9時、教室に集まった。
第一プログラムの時と同じように早瀬川がみんなの前に立つ。
「今回のプログラム、役職を持つ人はかなり重要になってくる。一応、立候補者を募ろうと思うんだけど、いるかな?」
庄林が手を挙げた。
「今回の役職の重要度を明らかにしたい。正直俺は王様よりも回答者の方が重要だと考えている。理由は回答者が退出した場合、相手チームの王様を当てたときの10点が入らなくなるからだ」
確かにと声が挙がった。最悪、王様を当てられても起死回生の一手を打つことができる役職だからだ。この回答者を失ったチームは唯一の矛を失ったと言っても過言ではない。
そして、庄林はみんなの反応を見て言った。
「そこで、俺がその『回答者』に立候補したい」
みんな驚いたが、庄林なら大丈夫という声もあった。確かに庄林の実力を考えても適任だなと俺も思った。その時、
「庄林もいいと思うけどさ、早瀬川の方がいいんじゃねーか?」
内川 豪が声を挙げた。俺と峰松と喋っていた時に話に割り込んできていた生徒だ。ここでも適格な意見を出してくる。しかし、すかさず早瀬川が反論した。
「いや、僕は他チームの回答で退出させられる可能性もあるんだ」
「どういうことだ?」
「このプログラム内容だと、王様じゃないと分かっていたとしても手強いと判断された生徒はそれ以上プログラムに関わらないように回答して退出させるっていう作戦が存在するんだ。例えばチーム6の光(みやひがし ひかる)や、チーム8の荒木田くんとかは筆頭候補かな」
「なるほどな、それなら、俺たちのチームなら早瀬川が退出させられる可能性があるってことか。そこで庄林が立候補したってことだよな?でも、庄林も退出させられる可能性があるんじゃないか?」
内川の言っていることも分かる。俺も庄林はチームの中では目立つ程有能だと思うからだ。そこで庄林が口を開いた。
「その可能性は確かにある。だが、一つのターンで行えるのは質問か回答のどちらかだ。その貴重な1枠を回答にそう何回も使えないはずだ」
庄林の説明に内川も納得した様子だ。
「そうか、相手の戦略を削ぐことばっかりしてたら、自分のチームの王様先に当てられる可能性もあるもんな」
しかし、内川に新しい疑問が生じたらしい。「もう一個いいか?」と言って喋り始める。
「他の人に回答者を任せて庄林が助言することもできるんじゃないか?」
その疑問に答えたのは早瀬川だった。
「その通りだけど、その任される人は回答者という重要な役職を背負う覚悟はあるのかな?」
確かにそうだ。任される人は指示する人に命令されながら頑張って行動し、負ければ自分は悪くない、指示したやつのせいだと言って、争いを生むかもしれない。
それなら、立候補している庄林がやったほうがいいということだ。
確かに立候補しているという立場の庄林は覚悟を持ってやってくれるに違いない。
おそらく庄林はそういうことも考えて立候補したのではないか。
「悪かった。色々考えると、回答者は庄林が適任だ」
内川が素直に自分の非を認めた。
「いや、豪(うちかわ ごう)のおかげで僕も進(しょうばやし すすむ)で良いと思えたよ」
早瀬川が内川をフォローする。
「それで早瀬川、王様はどうするんだ?」
内川が続けて聞く。
「私、やりたいです」
手が挙がった。南浜だ。
「えっと、理由を一応聞いてもいいかな」
早瀬川が理由を聞く。
「え?理由も何もここに登録すればいいんですよね?」
そう言って南浜は端末の画面を見してきた。
あとワンタップで南浜が王様になってしまう画面まで来ていた。
「おい、ちょっと待て」
ここまで黙っていた俺だが、さすがに声が漏れた。
しかし、時すでに遅し南浜は端末に指を近づける。まずい。やばい。
チームみんなが止めに行く。
やめてくれー!
「ふぅ、なんちゃって」
ズコーーーーーー!!!チーム全員がこけた。
マジでコイツ、一回ぶん殴ってもいいよな?
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