第3話 三郎のその後

 あの日逃亡した三郎は、片切進之介に捕まっていた。

 そして身の上を話した上で彼の部下になった。


 三郎の故郷は悪代官の増税のせいで、飢饉に苦しんでいた。それこそ村の娘や妻達は女郎屋に身を売り、僅かに金を稼いだが、多くの村人達がバタバタと息を失った。


 三郎とその仲間達は代官とは別の悪党と手を組み、村に食事と仕事をもたらした。それは裏の家業と呼ぶものだった。

 けれど誰も救ってくれなかった自分達に手を差し伸べたのは、その悪党だけだったので、三郎達はそれに従った。悪いことだと知っていても。


 そしていつかは女達を女郎屋から救う為に、悪事を重ねたのだ。捕まったら死罪確定の、最悪の極悪人。


 それでも動き続けた。


 南町奉行片桐進之介は三郎を死んだことにして、自らの部下にした。

 報酬は女郎屋に売られた女達の見受けと、村の再生に人員と予算を送ることだ。


 彼は村に戻った女房に、三郎以外の男衆のことと自分の罪を告白した。そして奉行の手下として今後生きていくことも。

 全てを知り抱き合った二人は、今生の別れをしたのだ。


「どんなあんたでも、私にとっては最高の旦那様だよ。それに村人達を救ってくれたのは、あんたと男衆だ。そうしなきゃみんな死んでた。だから生きてて。私はずっとあんたを愛してる。空に向かって祈ってる」


「うっ、ありがとうな。俺は他人に酷いことをした。許されないことをした。お前は良い奴がいれば、所帯を持っても良いんだ。俺は傍に居られないから。でもずっと思ってて良いか? 愛した女はお前だけだ!」


「ああっ、本当に行くのね。元気でいて。ずっと待ってる。私、待ってる、うっ、ぐすっ、うっ」

「……待ってなくて良い。ただ幸せになってくれ」



 傍で見守る片桐進之介と彼の部下と共に、彼は馬で村を去ったのだった。

 見えなくなるまで彼の女房や村人達は、ずっと手を振っていた。多くの不幸を招いた彼は、多くの人も救っていた。


 彼の良心は気がつくと、激しく彼を攻撃した。

「お前は罪人だ。何を偉そうな顔をして、とんだ偽善者だ! 生きる資格などない癖に! この悪魔が!」 


 懸命に生きると同時に、己の罪に苦しみ命を投げ出してしまいそうな衝動と戦っていた。

 それは今も抱えているけれど、使命を得た彼は命をかけて江戸を守ると誓ったのだ。






 今日、三郎は善次と名を変え、新しく生を受けた。

 三郎の名を永遠に失ったのだ。


 村のリーダーであった三郎は、腕っぷしも良く人気の歌舞伎役者のように渋いかんばせを持っていた。  

彼は諜報として危険な場所の潜入を行うのだ。


 今後彼と手を組んだ悪党と、衝突することもあるだろう。けれどそれを恐れずに、変装を駆使し剣技や格闘技を鍛えあげ、戦っていくのだ。



 彼らの村を壊した悪代官は、奉行の陳情で将軍に裁かれて死罪となった。新しい代官は少しはまともな者が就くことだろう。





 江戸の治安は、様々な人材に守られていくのだった。

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