2-2

 放課後。俺はリックと魔法実験準備室で作戦会議をしていた。


 今日は一日大変だった。転校生に相手にされなかったチャンは、当然のように俺に八つ当たりをした。休み時間どころか授業中ですら暴力の嵐は止まらない。

 もちろん、防御魔法使えなければリックの支援も受けられなかった。転校生のアリア・フォードが、こちらを監視しているような気がしたからだ。値踏みするような、実力を推し量るようなそんな視線を向けられた。そんな中で魔法を使うわけにはいかない。ある程度の魔法使いなら微量な魔法力の変動に気がつく。さらにその使い方、魔法の消費量、展開スピードである程度の実力が分かってしまう。

 そうなると、チャンに対して大げさに殴られていることがバレる。そこから色々と勘ぐられてしまうと面倒だ。

 だから、あいつの監視の目が外れるまではあまり魔法を使いたくない。


「今日は災難だったな」


 リックはボロボロの俺を見てからかうように笑った。

 そんなリックを横目に自信の体に回復魔法をかける。肉体強化から派生した細胞の活性化。これにより傷や怪我の治りが異常なほど早くなる。


「まぁな。……リック、お前気がついているか?」

「気がつくって何がだよ?」

「転校生のことだ」

「あー、あのフォードとかいうな。いやー別にこれといって。えらい美人だなぁとは思うけどな。そういや……何であの女、いきなりレンに近づいたんだ? そのせいでレンはボコられてる訳だし」


「————あいつ魔王の血族だ」

「なっ!?」


 レンは想定外だと言わんばかりに驚いていた。

 リックほどの魔法使いでもそこまではわからない。当然のことだった。


「けど、なんでそれが分かる?」

「リックならその理由にも想像がつくんじゃないか」

「そういうことか。だからあの女は……」


 得心がいったようで、リックは神妙な面持ちになった。


「あぁ。これからは今まで以上に力を隠蔽する必要がある」

「転校生に目をつけられないようにか……。じゃあ、今日に引き続いて支援魔法は使わないほうがいいってことだよな?」

「今日は助かった。悪いが、引き続きよろしく頼む」

「だけど防御魔法もなし、支援魔法もなしじゃ……レンの命が」

「魔王を殺すためなら命なんて惜しくない————だろ?」

「……そうだったな。俺たちは親をアンフラグ人に殺されたもの同士。もうこれ以上、イーヴィシュ人がアンフラグ人の食い物にされるのは見たくない」


 俺とリックが気の置けない仲になったのは、互いが似た境遇にあったからだ。アンフラグ人に肉親を奪われた。俺は一○歳のときに、リックは一四歳のときに。

 そして、リックの家族はまだアンフラグ人に搾取され続けていた。リックは姉と二人で首都ゼントムに暮らしている。それが何を意味するのか? 

 ————リックの姉は夜の仕事をしている。

 弟を学校に通わせるため自分の時間や魂を売っている。いや……売らざるを得ないのだ。俺の母と似たような境遇。リックは姉をそんな状態から解放したいと言った。

 だから、デイブレイクが発足したのだ。もうこれ以上、自分の大切な人に傷ついて欲しくない。幸せに暮らして欲しい。

 俺とリックの願いはそれだけだ。自分のちっぽけな命などどうだっていい。


「……でもさ、俺はレンにだって死んでほしくはないんだぜ?」


 リックは寂しそうに笑いながら言った。……相変わらず優しい。こんな他人を思いやられるリックだから、俺は全幅の信頼を置いている。


「犬死になんてしない。チャンにボコられたくらいで死んでたまるか」

「頼んだぞ。レンあってのデイブレイクなんだから」

「任せてくれ」


 それから、今後の立ち振る舞いについて二人で話し合った。

 決まったことは主に三つ。

 ・これまで以上に、大げさにチャン達の暴力を受ける。

 ・リックがアリア・フォードの挙動を監視する。

 ・放課後、俺とリックでアリア・フォードを尾行する。


 ただ受け身の姿勢では状況は好転しない。

 こちらからもアリア・フォードに仕掛ける必要がある。

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