久しぶりの二人での食事

舞台の練習が終わり足早に食堂に向かった。

結局団長は帰ってこなかった。きっと今頃ルミオさんと頭を悩ませているのだろう。応援してます団長。


スキップしていたらあっという間に食堂前に着いた。

「んんっ!」

咳払いをした。なんでだ。

ティカとは昨日も会ったじゃないか。いつも通り話すだけだ。

「ん゛ん」

咳払いをもう一度しておいた。だからなんで。


そういえばキエリスさんが中を案内しているかもしれないか。じゃあ既にいるとは限らないか。あんまり子供っぽくなく普通にティカがいたらいたで普段通りに。


扉を開けた。

あ、いた。

もうご飯を食べているな。なんか随分大きな口を開けている。

「本当にいた。やぁ、ティカ」


なんだ?空気が、時が固まった気がする。


「あ、続けて、どうぞ」

あの小さいお皿に乗っている白いものはアイスかな。もうご飯は終わりの頃か。

しかしお昼からアイスクリームは珍しいかもしれないな。

「あちゃ〜」

何故かベールさんを肘置きにしながら顔を手で覆っているキエリスさん。ベールさんに何してるんですか。


ステラッチェ団長がしゃぼん玉を作ってないからひとりで舞台上を守っていたんだ。優しくしてあげてほしい。


「プレンツ。また会ったね。」

「うん。まさか今日会えるとは思わなかったよ。」

なんだかアイスクリームを頬張るティカの姿は見てはいけなかったような気がする。何故だろう気まずい。女の子が大きく口を開けてるところを見るのがまずいのか。いやそれは間違いなくまずいと思うけど他にもこの気持ちの原因はある気がする。

自分の気持ちというのは自分のことなのによくわからない。


「舞台の練習してたの?お疲れ様」

「うん。午前の部が終わったからお昼休憩に。驚いたよ。こっちに戻るのは3日ぐらいはかかるかもしれないと聞いていたから。」

「うん!キエリスさんが頑張ってくれたおかげで!」

キエリス副団長の方を見た。

「よせやい」

何のキャラですか?


ベールさんにご飯を細かくしながら口に放り込んでいる。もっと優しくしてあげて。


「そうだったんだ。おばあちゃんと久しぶりに会ったんでしょ?もっとゆっくりすれば良かったのに」

ひとりでここ、クチャクティムイに来たティカ。唯一の家族に長い間会っていなかっただろうに。なんならぼくらが合流するまで村に留まっていてもよかったはずだ。

「いいの。岩の悪魔の退治が最優先。退治が終わればまたずーっと一緒にいられるからね!」

ぼくより歳上のティカ。だけど年相応とはいえない成熟した精神を持っていると前から感じていた。

もっと素直におばあちゃんに甘えればいいのにと思ってしまう。ぼくとは違ってまだ生きている家族がいるんだから。

甘える、か。甘えるどころか、必要以上に強がっているように思える。けどそれを指摘したところで何になるだろうか。

「そうだね。早く岩の悪魔を倒してしまおう。」

「うん!」

「あ、アイス溶けちゃうよ」

「あ!!!!!」

声でか!

「もう一回よそえばいいよ。きっと多めに作ってあって夜ご飯にも出てくることが多いから」

例えそうじゃなくてもぼくが食べなきゃ量的には許容範囲内だろう。



「子供の恋ほど見ていて歯がゆいものはないよね〜」

「キエリスだってまだ子供でしょ?」

「その子供に餌付けされながら言われても説得力ありませーん。ほら食べて!」

「ふがっ!」



今度はパンに挟んだチキンらしきものを口にぶち込まれている。あのふたりが話しているところあまり見たことなかったけど仲良いな。仲良いのはわかったから優しくしてあげてほしい。

いや、わざわざチキンサンドイッチにした状態にしてから口にぶち込んでいるのは優しさでは?優しさにも種類があることを今学んだ。


「プレンツも料理取りに行ったら?」

「うん。そうするよ。」

今日はチキンとコーンスープか。リマクに来てからとうもろこしを使ったメニューがよく並んでいる。甘いし風味も好きだ。サンリスタニアでもとうもろこし料理がよく出ていたっけ。大陸を挟んで移動しているのにとうもろこしの偉大さは変わらない。


パンは近くの街で買っているとミッケさんが言っていた。だとするとティカと会った日にニニギさんもフレンと3人で寄ったパン屋さんかな。

この団に入って本当に良かったと思うところは間違いなく食事だ。地域の郷土料理を作ってくれたり、色んな国の名物が出たりと色んな工夫がされている。毎日3食分の料理がマンネリしないのはさすがミッケさんとしか言いようがない。ちなみに宴会の時は全ての料理を街などで買っている。宴会が多いとめっちゃ楽とミッケさんは言っていた。団のお財布はどうか知らないけど。


たまに土地の豪勢な料理というのもいいけど、今ではミッケさんの作るご飯のほうがぼくは好きだな。


料理をよそってティカの隣に座った。チキンのソースの匂いがたまらない…。

「いただきます」

うん。美味しい。たまに出るこのソースは何というソースなんだろう。程よい塩気とハーブが疲れた身体に染み渡る。

リーホワさんのせいで変な汗をかいたからいつもより塩を欲しているのかもしれない。


「ミッケさんお料理本当に上手でびっくりしちゃった。」

「ミッケさんに会ったの?」

「うん!さっきキッチンを見学した時に会ったんだ。」

さらっと施設案内ぐらいした程度かと思ったけどミッケさんにまで会っていたとは。

「あと双子ちゃんにも!」

「ランランとシンシン。」

「そうそう!なんて可愛い名前!不思議な名前だよね。どこの国の人なの?」

どこの国の人?聞いたような聞かなかったような。

「リーホワさんとこの国の人」

「リーホワさんとこの国の人?リーホワ国?」

皇族らしいからそれもあってるかもしれない。

「そうだよ」

まぁ嘘じゃないだろう。

「あんなに小さくてもお手伝いしてすごいね」

「うん。すごい」

あのふたりも魔法がかなりできる。それにミッケさんも。ガルニエ内は電気が使えるから欧州の最先端家電を使ってるようだけど、それでもオーケストラ隊含めたら100人…そこまではいないけどかなりの人数の食事を3人で切り盛りなんてできない。


団長はそういうのもわかっててたまに宴会ということで3人に休息をあげているんだと思っている。

公演は休みでも食事を休むことはできない。人が魔法を使えるようになってもこういうところは変わらないんだろうな。

コーンスープを飲みながらパンで乾いた喉を潤した。


「プレンツもこんな人達に囲まれてても堂々としてるよね」

「そうかな?」

ぼくからすれば団のみんなに振り回されっぱなしだけど。

「うん。私もそんなに歳は変わらないのに。ここの人達はみーーんなすごい。毎日こんな料理を食べてるからなのかな?」

「ふふっ、確かに。それはあるかもしれない」

「やっぱりいい魔法にはいいご飯か」

「いや冗談だよティカ」

「うふふ。わかってますってば。」


ティカだって十分すごいじゃないか。ぼくはあんな光を出したりして飛ぶことはできない。

時折ティカが遠くを見るような、悲しそうな顔をしているように見えた。


「あ、アイスクリーム取ってきたんだ。食べて。」

「い、いいってプレンツが食べて。舞台の練習頑張ったんだから。私はちょっと飛んで、劇場内歩ってお風呂入っただけだから」

お風呂まで入っていたのか。施設見学どころの話ではなかった。キエリスさんかなり隅々まで案内していたんだな…あれ?いなくなってる。ベールさんもだ。いつのまに。そんなに話に夢中になっていたかな。


「じゃ半分こしよう」

アイスクリームの半分ほどをすくってティカの器に載せた。飛んできただけといっていたけど昨日は大冒険だったんだから栄養を摂って欲しい。慣れないことをするのは疲れるものだ。

「いいの?ありがと!プレンツ」

「どういたしまして。リマクは酪農も有名らしいね。アイスクリームも有名だったりするの?」

「ううん。高級な料理店ぐらいしか出てないと思う。初めて食べたけど…こんなに美味しいなんて」

頬に手を当てながら口に入れたアイスクリームを堪能している。

キエリスさんの『あちゃ〜』の理由がわかった。人生初のアイスクリーム体験を邪魔しちゃったからか。それは申し訳がない。


「初めてだったんだね。ぼくもこの団に来てから食べたけど感動したなぁ」

クチャクティムイは結構暑いから冷凍技術がなかなか保てないのだろうか。だから一部の店でしか出回っていないとかかな。


「アイスクリームが美味しいのはここの牛乳が美味しいからだよ。だからミッケさん達とリマクのおかげだと思う」

「そうかも!お料理が上手でも素材も良くないと美味しいものにも限界があるもんね」

ティカが最後のひとくちを口に運んだ。

「ミッケさん、双子ちゃん、パチャママありがとう。美味しかったです」


そう言ってぼくの方を見て微笑むティカ。

相変わらず太陽のように笑う人だなと思った。

思わずぼくも口元が緩んだ。

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