第9話 私が飲んだのは、自由の味か、ぬるい牛乳か

強制収容4日目(月曜日)


朝6時から左手採血をし、右手は抗生剤点滴を付けられる。

抗生剤点滴は、1日に3本入れるらしく、

気づけば外されていて、気づけばついている。

看護師さんが、きっちりとつけ外しに来てくれる。

だが私は、そのタイミングに寝ていたりボーッとしていたりして気づかないこともある。


点滴をしていると、薬の種類によるかもしれないが、尿の匂いが臭い。

尿の匂いというよりも、薬品臭い。

精神的に病んでる人の体から発される匂いと似ている。

あれは、薬の匂いなんだな。


そして、入院してから熱が37度を下回ることがない。

謎である。

私は点滴と絶食のせいなのか、

喉の炎症のせいなのか、

入院のストレスなのか、など

勝手に予想しているが、日常に戻れば熱も下がるのでは?

と思う。


8時 周りの病人3人がご飯を食べる前、

ドクターと思われる人が様子を見にきてくれた。

もはや誰が誰かなんかわからない。

偽者が紛れていてもわからない。

みんな同じ。特別に濃いキャラじゃないとわからない。


私「喉は、なんともないです」

私「めっちゃ元気です」

私「退院させてください」

と訴えるも

おそらくドクター「ご飯食べてみて大丈夫か確認しないといけないからね」

おそらくドクター「喉の炎症は悪くなると怖いから」

と言われた。

この分だと今日の退所はないらしい。

最短でも明日。


その後、看護師さんが来て、

抗生剤点滴を外しながら

「先生、なんか言うてましたか?」

と聞いてきた。


(患者を試してる?)


上記を説明すると、

看護師「でしょ?ご飯食べてみないとダメなんです」と


今後の流れとしては、

①CTの結果、ご飯食べていいかの判断が下る。

②ご飯を食べて、喉の炎症が起きないか確認する。


全ての流れがゆっくりすぎて耐えられない。


最後の退院判断は師長になるそうだ。

なぜドクターではないのか。


さて、金曜日以来の久しぶりの平日ということで、病院にいる人の密度が濃い。

病棟にも研修生か何かわからないが、たくさんの女子がミーティングしている。


金曜日に出会ったような気がするドクターもいる。

別のドクターからも

「喉の調子はどうですか」

と言われ、調子がすこぶるいいことを訴える。

「血液検査も炎症出てないですからねー」

と言われ、(よっしゃ!)絶対大丈夫やんか!


「濁さん、CT行きましょう」


ま、とりあえずCTに呼ばれたので行くことにする。

何はともあれ、その結果次第だ。


本日のハイライト、CTのイベント会場は地下一階。

点滴をガラガラ押しながら行く。

院内は、一般外来で人がたくさんいた。


私は、すぐに帰るつもりだったので、

パジャマなんぞ持ってきていないから、いわゆる普通の服を着ている。

というか、パジャマすら家にない。


ここで入院着まで着たら、病人みたいで嫌だ。

病人コスプレではないか。


私はただ、骨が刺さってしまっただけの健康おばさんなのだ。


外来患者が並んでいる中、私が一番に呼ばれる。

CTの会場にアーリーエントランス。申し訳ないわねえ。

そこは図々しくいく。

だって強制収容メンバーだもの。

外来の一般人とはレベルが違うわ。毎日が苦痛なんだから。


金曜日の再放送かのように、全く同じ工程で2回目のCTを撮り、

あっさりと病室に帰らされる。


やることが一つ終わり、気分上々。


病室に帰るエレベーターの中で、

もっと重病そうな入院患者と一緒になる。

なんか、血みたいな液体がボコボコしている機械をガラガラ運んでいて、体に管が付いている。

きっと大変なやつなんだろうな。


病室に帰ると、

ベッド2のおばさんが明日退院する確約を取り付けていた。

なんだと!

ワシを置いて先に帰るのか!

(そら、無関係ですから)


そして、ベッドにシーツ交換の人が3人も来た。

ササササササという擬態語がよく似合う、スピードで

シーツを取り換えていく。

「はい、キレイになりましたよ〜」


我が家にも定期的に来てくれたらいいのに。


ていうかー。もうすぐ退院するのにーー。

これ以上延泊したくないんですけど。

このタイミングでシーツ交換って、

「もうちょっとゆっくり泊まっていき」

と言われているようだ。


さて、新たな看護師さん登場

いったい看護師メンバーは何人いるんだってくらい、

毎回違う人が来る。

ただ、この看護師さんは好きだ。

なんとなく話しやすい。

ボーイッシュで、さっぱりしていて、優しい。


今日の昼からお粥が出るから、

全部食べられたら24時間の点滴は外せるとのこと。

ただ、抗生剤点滴はまだ続くらしい。


なんやと?!

ほんなら絶対ご飯完食せなあかんな。


そして、退院は、明後日以降とのこと。

あさって?水曜日?ずるずるずるずるしやがって。


そうそう、一つ言っておきたいことがある。

毎回看護師とドクターが変わるから、回診のタイミングで

必ず聞かれることがある。

「魚の骨刺さってたところ、調子はいかがですか〜?」


やめれ!そんな大声で言うなあああ!

病室に響くんだよ、「魚の骨」って単語が!


恥ずかしい。

滑稽すぎる。


「え?あの新人さん、魚の骨が刺さって入院?まぢ?そんなバカいるんだ」

って思われてるんじゃないの?っていう被害妄想は広がる。


もう骨は抜けてるのに、羞恥だけが残っている。


ようやく、口からご飯を食べる許可が下りた。

優雅なランチタイムスタートだ!

初めてのごはんはおかゆが出た。

私が食べたいものを食べるという練りに練った妄想も破れ崩れた。


ー献立ー

お粥200g

山芋、にんじん、インゲン炊いたやつ

小松菜のおひたし

鯖と長ネギを煮たやつ

牛乳200ml


「さあ食べよう」


と思ったら箸がない!そうか!ご飯を食べるには箸が要るんだ!

収容所の食事には箸がついていない。


なんでなん?

箸だけ個人持ちってなんの理由があるんだろう。

食洗機に入れるだけじゃないのか?

っていうかさ、ごはん始めましょうねっていう時に、

「箸の用意がいりますよ」って一言いうてくれてもいいやん。

ここの病院は、本当に説明がない。


ということで、

急遽、地下一階のコンビニまで買いに行く。

プラスチックケースに入った、カチャカチャいう携帯用箸にするか、

フォークにするか、割り箸にするか。

どうでもいい議題であるが真剣に悩む。

なんせ、私には収入がない上に、支出だらけだから。


フォークが安いし、洗ったら何回も使えるしいいなあと悩んだが、

ご飯は箸でしょ!

フォークなんかでご飯が食えるか!

ということで、割り箸30本入りをチョイス。


使った割り箸は、焚き付けに使います。

コレがめっちゃ火つくんす。

だから、捨てずに持ち帰ります。


配膳されたとき、(お、おかずもついてる!)

と、ちょい嬉しかった。

味付けはやや辛いが、まあまあ、こんなもんだろうって感じ。

この季節(2月)にインゲンはないので冷凍だろう。

(インゲン豆は夏に採れる)


牛乳は飲みたくないが、

残したら退院が遅くなると困るので良い子にして飲み切る。

まさか、絶食後初めて口にするものが牛乳になるとは、思いもしなかった。


最後に牛乳を飲むのは嫌。

ぬるくなるし、あと口嫌いだし。

だから、一番に飲み干した。


お腹が、キュルキュル言い出した。

消化器官が

「お?食べ物来るんかい!久しぶりやのう」

と言うておる。私は内臓と会話できる超人だ。


あっという間に完食。

看護師さんが見に来た。

看護師「食べれましたか? 飲み込みに違和感ないですか?」

私「完食です。まーーっっっったくいつも通りです」

と答えた。

ほんま、これは嘘やなくて、

骨が刺さる前と同じ感じやで!

完治してるで!!


食後30分くらいしたら、便意を催した。

オナラなのか、本物なのか分からないから、

4人部屋で少々力んで試すわけにもいかず、

トイレで試す。

バナナ状の本物が出た。

これはおそらく金曜日食べたヤツが

ようやく晴れて便として排出されたらしい。

にしても、

私の腸、めっちゃ活発に動き出してる。

すんばらしい。



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