異世界召喚されたら聖女でしたが、(王太子妃さまからの)ストーカー被害に遭っています

霜月 風雅

第1話 召喚された異世界聖女ですが、王太子妃にストーカーされています。

私は、いわゆる異世界から召喚された聖女だ。


今日も、今日とて聖女としてこの国の殿下であるルーイ様とダンスパーティに来ている。

「とてもお似合いですねえ。」「ええ。殿下が聖女様を妃としてお迎えになれば、この国も安泰ですね。」

そんな声が、する中で美しい銀の髪とアメジスト色の瞳を持つ殿下は、穏やかに微笑んで私とダンスを踊っている。


「なんて、ことっ!!」


そこに聞こえてきた声に、私もそして周りもピタリと静かになる。

殿下だけが、苦々しい表情を浮かべため息を吐いた。


「アイラ、今日は君は欠席のはずでは?」

「ええ、そうです。今夜、ダンスパーティがあるなんて殿下は、ひと言も仰らなかったのに。」


カツカツ、カツカツ、すぐそばまでやってきたアイラ様は、私を一瞬だけ舐めるように見て、ルーイ様を見上げ、睨む。


「こうなるだろうから、君を呼ばなかったんだ。」

「ええ。そうでしょうね。・・・・聖女様が、いらっしゃるなら。」

「アイラ、」

「聖女様、あとで私のところに来てくださる?それとも、私があなたの部屋に行きましょうか。」


有無を言わさぬ迫力でアイラ様は、そう告げるとあっという間にダンスホールから出て行った。



異世界から召喚されたなんの変哲もない私が、この国では聖女と呼ばれ持て囃されている。よくある話だ。

漫画やゲームで何度も、見ていた。


「聖女様、アイラ様がいらっしゃいました。」

「え。」


ダンスパーティが一段落して部屋に戻った瞬間、メイドさんと入れ変わるように、まさにお姫様というような姿のアイラ様がやってきた。


「はあ。本当に、信じられない。殿下は、何をお考えなの。今日のパーティは国の重鎮だけではなく他国の大使も来ているのに。それなのに、よりによって。」


琥珀色の瞳が、怒りと憤りを湛えて私を見る。

あぁ。これは、相当だ。

私は、今までの経験から今夜は恐ろしく長い夜になりそうだ。と、覚悟を決める。


「脱いでくださる?そのドレス。」

「・・・・え?」

「今すぐ、そのドレスを脱いでください。」


言われるまま、今日の衣装として用意されていた濃いブルーのドレスを脱ぐ。

それを差し出されたアイラ様の手に渡すと、アイラ様は指先に力を入れ、ギッと鈍い音をさせて生地に傷を作った。


「やっぱり。」

「あの、」


メラメラ、メラメラ、アイラ様の瞳に炎が一層大きく燃える。

私は、ドレスの下に着る下着だけの姿で栗色の髪をふるふると震わせる様を見つめ。


「よくも、こんな安物を。何を考えているの、あの人は!!!そもそも!こんな趣味の悪い濃い色を合わせるなんて信じられない。あなたも、あなたです、夢子!!前にも私は言いましたよね、夢子に似合うのはもっと淡い色合いのドレスだと。それに、こんなもったりとしたデザインではなくて!!あなたのスタイルの良さが出るようなマーメイドドレスがいいと!!!ほら、これ!!これです!!」


始まった。

捲し立てるようにアイラ様は、言うと傍らに置いていたスーツケースから、見たこともないくらい綺麗なドレスを出して私に押し付ける。

これは、着ろ。ということだ。触った瞬間に分かる、さっきの物とは段違いに良い生地がこのドレスの本気度を示している。


「全く。本当に。もっと早く知っていれば、きちんとした物を仕立てたのに。」


これでも、十分、きちんとした物では。思ったが、口に出しても無駄なことはわかっているので黙ってドレスを着る。

まるで素晴らしい演劇を見ているかのように、頬を紅潮させているアイラ様に見守られながら。


「はあ。本当に、あなたは可愛いですね。夢子。あぁ。私、あなたが大好き。」



そう。この方、ルーイ様の奥様は私が大好きなのである。それはもう、本当に。



召喚された当初、私を見たルーイ王子は、何かを感じたようだった。よくある運命の何かとかのような物だと思ったが、それは全くの勘違いだったと後でわかる。

ルーイ様は、私を決して王太子妃であるアイラ様に近づけないこと。見せないこと、知らせないこと。を、徹底するように部下やメイドさんに言っていた。

そのせいで王子が聖女にご執心である、という噂が流れた。

そしてやってきたアイラ様が言った言葉は


「まあ。なんて、可愛い方!ああ、私、可愛い女性が大好きなの。」


である。


「失礼。アイラ、君は、また。」

「ルーイさま!」

「まあ、旦那さま。あんな酷いお衣装を用意したのは、あなたですか?夢子のドレスは私が決めると何度も言っているのに。どうして聞いてくれないの?ほら、こっちの方が断然、美しいでしょう?」


ふふんと嬉しそうな表情で私の周りを回るアイラ様のことを目で追いながら、ルーイ様は一瞬だけ、私を見て。また、アイラ様を見る。


「あぁ。君の見立てに間違いはないからね。さすが、僕のアイラだ。」


聖女に王子がご執心、そんなことがあるはずない。

なぜなら、ルーイ様の目にはアイラ様しか映っていないし。そのお心を占める約8割はアイラ様のことだ。


「でしょう。でしょう。私は、夢子のことを一番良く見ているんだから。」


うっとりと私を見つめるアイラ様をうっとりと見つめるルーイ様。


あぁ。勘弁して欲しい。

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