部内戦 3
僕たちBチームは、第三試合と第四試合でも順調に勝ち続けた。途中危ない場面があっても、僕たちは必死に食らいついて、危機を脱し、ある時は終盤で逆転し、勢いに乗っていた。
そうして、最後、雨宮率いるDチームと、第五試合を繰り広げる。
「よろしくお願いします!」
現在、両チーム全勝。お互い、この時が最後であり、主戦場である。声が張り、まるで大会のような緊張感に包まれた。
そして、数秒静寂が訪れた後。試合開始の笛が、高く鳴った。
一も緊張しているのだろう。笛が鳴ってからも、数秒深呼吸をして。
僕に、パスを出した。 第一試合と同じように、キックオフは一が僕にパスするところから始める。
作戦通り、僕たちは前線へ駆け上がる。目の前には雨宮が立ち塞がった。
「いつも同じ作戦って、舐めてる?」
「舐めてねぇよ」
一度身体を回して、軸足でボランチにパスを繋げた。通常はそのまま、右ウイングへ回すのだが、今回は違う。一がボランチからボールを受け取って、そのまま前進し始めた。
「作戦は、変わってるってことか」
雨宮は呟くけれど、僕のマークからはがれない。
「いいのか? 一を放っておいて」
僕は雨宮に口を飛ばす。しかし、雨宮は答えなかった。マークもはがれない。
一が左ウイングへ寄り付く。そして、ウイングがタイミングよく中央に駆け寄った。
弱く一がボールをウイングへパスをしたところで、ウイングはそのボールに対しダイレクトパスをしかけるべく、真ん中へ走っていった。
僕は雨宮から離れ、走り出した。しかし、雨宮はそれを見越していた。雨宮も走り出したのだ。しかし、僕にボールが届く前に、射線には一がいる。一のヘディングで、得点は決まるはずだ。
「なぁ、翔」
空中で、周りに大声が響いている中、微かに雨宮の声が聞こえた。
「本当に、これでいいのか?」
一は、驚くほど軽やかに、そして美しくヘディングシュートを決めた。
第一試合と同じように。また、周りに驚嘆の声が散らばる。
「レギュラー確定じゃんか」
付近の一年ボランチが呟いたのを聞いて、僕ははっと不穏な考えが浮かんだ。
でも、すぐに握りつぶす。それでいいわけがないだろう。僕は、僕らしく。
「そっちこそ、勝ちにいかなくていいのか」
逆に、僕は雨宮に問いかけて、そのままキックオフの位置に戻っていった。
今度は、雨宮が攻める番だった。同じように雨宮がこちらに上がってくる。もちろん、相対するのは僕だった。
右足、左足。雨宮の行動を警戒しながら、徐々に前線へ押し入っていく。
雨宮も迷惑そうにしていたが、また。
「それでいいのか」
と言って、ボランチにパスを出した。
僕の思惑通りだった、はずなのに。
「なんだよ。それ」
不快に思いながら、僕は雨宮のマークを外さない。それでいいのか。なんだ、それ。僕は、雨宮。お前に勝ちに来てるんだぞ。
しかし、それでも雨宮は何も言わなかった。黙って、前線にポジションを取ろうとしている。
僕は追いかける。第一試合の失敗を起こさないように、今度はちゃんと、ボールの場所を見ながら。
ボランチがボールを運んでる。位置的に、雨宮には渡らない。
”それでいいのか”
雨宮は、僕の思考が全て読めているように見えた。
それでいいのか。それでいいのか。僕は、何でやっと、いいようになるんだ?
我儘、野心、堅実、僕は、どんなプレーを求められているんだ?
気付けば、足が踏み出していた。取る気もない、やる気もないディフェンスなんか、やっぱり合わない。
ボールを持って寄り付くボランチが見える。
あとちょっと。そして……
「にのまえ! 雨宮だぁ!」
ボランチの足が放たれた。場所は、あえてマークが外れている雨宮。
角度が厳しかったのだろう。空中に飛ぶ、荒々しいキラーパス。でも、一なら取れる。
一が、雨宮の前に走り込んだ。間に合うはずだ。信じて、僕はハーフラインへ飛び出した。リバウンドを取るために、全速力で走り出した。
しかし、背後に向けた自陣からは強く、鈍く何かが崩れ落ちるような、それとも砕け散るような。
視界に収まっていないはずの背後の光景がすぐに想像できる。いや、分かってしまうような、そんな生々しい、人間と人間が強くぶつかる音。
僕が走っている。止まっていない。止めてはいけない。
そう走り続けたのも、意味は無く。
すぐにどさっ。と音を立てて、事件的な悲鳴が、大きく響くのみだった。
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