部内戦 1
十二月二十四日。
世間では聖夜、クリスマスイブともてはやされるこの日であるが、上祇園高校サッカー部ではこの日、伝統の部内戦が開催される。
聖夜前戦、キリスト戦、イブ・クリスマス戦。呼称は様々なこの部内戦。一同が注目し、部内はひり付いていた。
何故なら、この部内戦が来年度のレギュラーを選ぶ軸となるからだ。
上祇園高校のレギュラーは、基本この部内戦で決まる。この部内戦以外で決まることは、特殊な時以外滅多にない。それこそ、監督が変わったり、問題が起きたりした時は別であるが。
つまり、一年にとっては下克上の最大の場であり、二年にとっては次の一年の運命が決まる事となるのだ。
朝九時。事前にバランスよく振り分けられたチームで集まり、アップと作戦、フォーメーションを組み立てる。
全五チーム。一チーム十一人で、ゴールキーパーは四人しかいないので、現レギュラーのゴールキーパーがAチームとEチームを担当する。
僕はBチーム。雨宮はDチームだった。
アップを終え、第一試合の準備をする。審判は余り一チームで、校舎側と離れのプール側二つに分けた、ハーフコート前後半合わせて六十分の試合だ。
初め、僕たちの相手はAチームなので、校舎側に向かう。
「じゃあ、お互いな。第五試合、楽しみにしてる」
その途中。雰囲気が変わりすぎて気付かなかった。雨宮がポンと僕の肩を叩いて、プール側のコートへ振り返らずに真っすぐと進む。
おう。と、返事がしたかった。けれど、雨宮の毅然とした覚悟を見て、返事すらする必要がないことに気付いた。
誰のために、戦ってると思ってんだ。
代わりに、心の中でそう念じた。
第一試合開始の合図が出ると、僕たちはいつもより一回り小さなグラウンドに立った。フォーメーションはFW二人のツートップ。現レギュラーと同じフォーメーションで戦う。
「お願いします!」
前半の先制キックオフを獲得したので、その体制を作る。中央には僕ともう一人の一年FW、
開始前だというのに、体がうずうずした。手が震えた。伝統の重みでもない。緊張でもない。責任の重みだ。
審判の笛が鳴る。キックオフだ。一がファーストタッチで僕にパスを出す。
すかさず、僕は前線へ駆けあがる。ハーフラインをチームで押し上げ、右ウイングへパスを出した。
作戦は、ハーフラインの死守を試合に行うことだ。
そのためにも、最初にとにかく前に上がり、大きくけり出す隙を与えぬよう、必ずマークをするように言っておいた。
作戦通り、ハーフラインにディフェンスが並ぶ。
ウイングがやや下がり目に両翼に立ち、中央でFWがパスを受け、アタックを始めた。一は正直言ってあまり点を取りに行くタイプではない。しかし、下手ではない。彼は積極的にフェイクをかけるので、マークがよく分散する。
悪い。でも、僕はレギュラーにならないといけないんだ。
そのことを承知しているのかは知らないが、一はそのことに協力的だった。
そうして、前半は特にハーフラインを割る事がなく、二点先取でひとまず終えることができた。
一点は僕。もう一点は、右ウイングの選手の逆サイド転換によるものだった。
十分の休憩の間に、一に話しかける。
「君、雨宮とプレー似てるね」
一は急に話題を振られたことにきょとんとしながらも、頷いた。
「雨宮先輩と、同じ中学なんです」
そして、そうも言った。
僕は、雨宮の中学時代をよく知らない。けれども、至って普通な時代を送っていたんだろうとも思う。
「そう。じゃあ、後半も頼むよ」
ひとまず、僕はその話題を後に回し、僕は後半の作戦を共有して、コートチェンジを行った。
配置につき、審判が笛を吹く。
後半のキックオフは、相手Aチームからだ。
ボランチからワントップのFWにボールをパスして、ハーフラインを踏み切る。
僕はすかさず、FWの前に立った。
後半の作戦は、とにかく守る。これだけだ。
ワントップの場合、ウイングやボランチの攻撃が続くため、状況によって人数有利を作りながらも、基本は一人一マークと言ってある。
ワントップなだけあって、相手のFWは強力だ。しかし、僕だってディフェンスの自信がないわけではない。
右、左。フェイント、そして、中央から位置を逸らす!
「チッ……」
相手FWから舌打ちが漏れた。随分迷惑なのだろう。それもそうだ、ボールをもぎ取ることを目的としていないディフェンスの厄介さを、僕はよく知っている。
しばらく前線が停滞する。そうして、徐々に囲んでいった後に、後方のボランチにパスが渡った。パスは通ったものの、前線は上がっていない。
相手FWはすかさず前線に飛び出し、クイックを狙う。僕は抜かせないようにするが、全速力で走っていくので、中々追いつけない。だが、パスコースは開いていないはず。
「追いついたっ!」
相手FWが失速したところで、一瞬前線方向を振り返る。
しかし、先ほどまでボールを持っていたボランチが見えない。
どこだ。さっきのボランチはどこだ?
続いて、マークしているFWを見る。ボールは渡っていない……けれど、ボールの姿が見えない……?
意識が削がれている瞬間。それはたった寸秒の事だった。
「ヘイ、左だ!」
急に相手FWが走り出した。まずい、反応が遅れてしまった。
ボールがゴール中央に高く上がる。相手FWが高く跳ね上がり、ヘディングの体制へ。
くっそ……油断した。
一点を覚悟し、焦る未来が見えた。その時だった。空中を舞うボールが、突如FWに渡る前に前線へ跳ね返る。
「はっ!?」
その場、全員が度肝を抜かれたのは、間違いないだろう。
「……ないっすぅ! にのまえ!」
一だった。一年生とは思えないほどのジャンプ力が、一の体を空へ放り出し、正しく完璧なヘディングで、ボールがハーフライン側へ飛んだのだ。
ボールは相手ボランチをマークしていたチームメイトが咄嗟に合わせ、流れのままに左ウイングへパスを送った。
相手FWは、後半開始直後にして気力が落ちているようだった。相手の作戦が僕たちの作戦と似たようなものだったみたいで、ハーフラインに固まっていたディフェンスを大きく抜け、独走状態のウイングが見える。
作戦は、その時急に入れ替わった。カウンター。明らかに、それは決定打となり、第一試合を五対零で終えた。
一は点こそ決めていなかったのだが、三アシスト、そして、あのヘディングの大活躍だった。
僕はハットトリックを決めたものの、既に少し焦っている。
もしかしたら、僕はFWになれないんじゃないか?
突如現れ、そして僕を打ち抜いた。野心どうこうじゃない。コイツは、勝つためのピースとして用途が多すぎる!
第二試合で、次は審判の準備を始める。
一のあのプレーは既に多くの噂となっていた。あのヘディングを見ていた選手は、あの試合の事を全く覚えずに、ただそのことだけを話していた。
明らかに、印象の格差があった。なんだ。この気持ちは。
後戻りできない。勝ったのに。なんだか焦りが酷い。
一が敵だったら。僕は野心を発揮できたのに。
いっそ、次の試合は、一を邪魔して……。
不穏な思いの中、目の前にやけに誇らしげな顔をした人影が、気付けば前にいた。
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