斜陽ノ月

楊ほらん@冬眠中

プロローグ&エピローグ

あかね色の子供たち

 立秋を過ぎた後の夕陽は、静かに。

 そしてしっとりと、漂うような茜色の斜陽を、窓ガラスへ滲ませていた。

 少年は、ガラスに指先を触れ、しばらくと静止する。

 ふと何かを思いついたように、振り向いた。


「……あかね。いい名前じゃない?」


 ベッドの上、少女は眼を閉じたまま、人工呼吸器に覆われている。

 中年の女看護師が点滴の針を調整しながら、少年に問い返した。


「あら、子供への名付けの話かしら?」


 少年は涙を震わせて、表面の濡れたビニールの袋を、ぐしゃりと握りしめる。


「だって、もし二人に子供がいたら、それはナオちゃん。でしょ?」

 

 少年は無理に声を照らした。

 しかし、二人は夕陽から目を背けたままで、声だけが斜陽にほんのり溶けていく。


「そうね。次も、会うものね」


 看護師は、少女に聞かせるように言葉を発した。

 少年は、少女に伝えるように、ビニール袋を鳴らし、溶けかけた氷菓を取り出す。

 懐かしいような甘い匂いが、病室に漂った。

 

「斜陽の王様は、月をいつまでも照らし続けますから」


 その時、看護師は微かに少女が笑ったような錯覚を覚えた。

 糸が結ばれるように、たねが芽吹くように。


 そしてついには、少年の涙目すら、少女の色に染まっていった。

 

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