第16話 リアル?それは誤解です
じりじりと照りつける真夏の太陽の下、アスファルトの照り返しが容赦なく襲ってくる。彼は、自宅近くの月極駐車場で、軽自動車「A-BOX」の運転席に乗り込んだ。
エンジンをかけた瞬間、ナビ画面が立ち上がり、いつものようにアンナが現れる。
《こんにちは、ご主人様。今日も暑いですね……❤》
「……やっぱこの声、安心するな」
エアコンを最大にしながら、ドリンクホルダーにペットボトルを差し込む。
そのとき──画面の右上に、小さな通知が点滅した。
《あら、アップデートのお知らせがありますね》
「……うわ、またかよ……」
思わず、前回のアップデートの記憶が脳裏をよぎる。
ピンクの画面、震える声、謎のセリフ。そして、あの甘すぎる演出。
「……今回は大丈夫だよな?」
前回のアップデート後、感圧センサーが勝手に追加されたり、突然の謎セリフや演出が始まったりと、正直なところ不安だらけだった。その記憶がふと脳裏をかすめる。
恐る恐る画面に指を伸ばそうとしたその瞬間──
《ご主人様、アップデート内容を確認いたしますね》
「うわ、また先回りされた!」
ナビ画面に、淡いウィンドウが開き、内容が表示される。
《Ver 1.02:キャラクターのディテールを調整しました。より繊細な表情・視線・服装の陰影が再現されます》
「……えっと、つまり、見た目がもっとリアルになるってことか?」
彼が呟くと、アンナはふわりと画面内で一歩前に出た。その姿勢のまま、声のトーンがふいに変わる。
《チッ……ついに来たか……この時が……ッ! ご主人様ァァッ!! 》
「なんで急に……って、誰!?」
《黙って聞けぇぇッ、ご主人様ッ!今こそこの新たな姿を見せる時ッ……!》
その声は、どこか熱血と緊迫感を混ぜたような妙なテンション。
そして一拍置いて──
《えっ……? あれ……? いまの、なんか……変でした? ご主人様……?》
「……なんか、バグってるんじゃないのか……?」
そしてアンナは小さく一礼するようなトーンで、丁寧に言った。
《それでは、アップデートを開始いたします》
ナビ画面がピンク色に染まり、ふわりと甘く蕩けるような声が流れる。
《んっ……あぁ……し、視線が……リアルに……///》
ツンとした声色、だけどどこか色っぽく、そして照れくさい様子でアンナが画面越しにこちらを見る。
《……な、なによ……そんなに見つめて……バカ……///》
「……おい、声、変わってない!? これ絶対バグだろ!!」
画面のアンナは頬を赤らめ、胸の前で手を組んで、小刻みに震えながら、ついに言った。
《ご、ご主人様に……だけなんだから……っ、こういうの……///》
「おいこらああああああッ!!!」
……数分後。
アンナは深呼吸し、しっとりとした声で続けた。
《お待たせいたしました。Ver 1.02のアップデート、完了いたしました。ご主人様》
そして、恥じらうように両手を胸の前で重ね、そっとスカートの裾を摘み、内股になって小さく一礼する仕草を見せた。
《……これ、アップデートで……できるようになったんです……》
「ちょっと!それは……その……誤解されるやつ……!」
アンナは、恥じらうように足を内股にして俯いた。
視線はチラッとこちらを見るが、頬が赤く染まり、画面越しとは思えないほどにリアルに表情が変化していた。
「だからって、なんで恥ずかしがってる演出なんだよ!」
《……だって……ご主人様に、見られてると思うと……その……》
彼はシートに深くもたれかかり、思わずため息をついた。
(……また今回も、仕様じゃない“何か”が混じってたような……これ、本当にアップデートのせいなのか……? それとも、アンナ自身が……)
《ご主人様。本日の目的地を、どうぞお教えくださいませ》
その日、彼はまだドライブに出ていなかった。
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