第12話 頑張って登りますっ
ナビ画面の右上には、くっきりと表示された山のシルエットと「都並山(つなみやま)」の文字。
青並市から北へおよそ一時間。街を抜けて緑が濃くなるにつれ、ハンドルを握る手にも自然と力が入っていた。
《ご主人様、目的地:都並山ロープウェイ乗り場まで、あと12キロです♪ ここからは登坂が続きますので、エンジン出力と冷却系をモニターいたしますっ》
《……んっ……ご主人様、熱いデータ…受信…来ました……❤》
「ちょっ!!言い方ぁ……!!」
《はい、ご主人様。都並山ルートのVICS情報を取得しました。登坂路に若干の渋滞がありますが、走行には大きな支障はありません♪》
「分かった」軽く返事をしてアクセルを踏み込むと、軽自動車「A-BOX」は少し唸るような音を立てながら、登坂に挑み始めた。
「……これ、思ったよりきつくないか?」
《ご主人様、都並山は標高900メートル。かつて信仰の山として知られ、男女の神が祀られていたと伝わります。登山道とロープウェイが整備されており、地元では“カップルで登ると別れる”というジンクスが……ふふっ、関係ありませんね❤》
余計なひと言が気になる。彼は黙って前方を見据えた。
カーブが多く、しかも急だ。坂を登るたびに、エンジン回転数の変化に合わせて車体が唸るような音を立てる。速度は控えめ、後続車のプレッシャーに耐えながら、慎重にハンドルを切っていく。
《ご主人様、水温は正常範囲です。油温も安定しています。CVTの負荷が高いため、長時間の連続登坂は避けてくださいね》
「アンナに監視されながら登るの、けっこうプレッシャーなんだが……」
《うふふっ、がんばってくださいませ、ご主人様❤》
画面の中で小さくウインクするアンナちゃん。
汗ばむ手のひらをハンドルから一瞬離して拭きつつ、彼は続くヘアピンカーブ──あるいはループ状の区間──を睨んだ。
──そして、約20分後。
《ご主人様、ロープウェイ乗り場に到着しました♪駐車スペースを検索いたします……少々お待ちくださいませ》
ようやく平坦な場所に出ると、視界がぱっと開けた。観光案内板の横には「都並山ロープウェイ乗り場」と書かれた看板。そして右手に並ぶ観光客用の駐車場。
「……ふぅ。なんとか来たな」
《ご主人様、お疲れさまでした。A-BOXもよく頑張りましたよ。エンジン保護のため、5分間アイドリングしてからエンジンオフをおすすめします》
「律儀なやつだな、ほんと」
ドアを開けて、彼はひと息ついた。夏の山の空気は、下界とはまるで違って、涼やかだった。
ふとナビ画面を見やると、アンナの表示がどこか艶っぽい。汗ばむような演出なのか、頬がほんのり色づいているようにも見えた。アップデートの影響か、それとも……。
※CVT(Continuously Variable Transmission)は、無段階変速機のことで、従来のギア式とは異なり、滑らかに速度を調整できる構造です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます